記事のサマリー(TL;DR)
- サイボウズでは「当たり前品質」という QA 用語がチーム共通言語化されるほど、開発エンジニアも品質意識を持つ文化が根付いている
- 約60名の QA 組織が AI 活用テスト自動化・脆弱性診断・インフラ品質など多様な専門性を内包している
- 採用・社内教育・外部登壇支援を QA 組織自身が業務として担い、「テストをする集団」にとどまらない組織運営を実現
ソフトウェア品質組織の内製化が進む日本企業に伝わる実態
サイボウズの事例は、日本の SaaS 企業が「品質保証部門をどう位置づけるか」を再考するうえで参考になります。日本では QA が「開発後の検査部門」として分離される構造が根強く残っており、開発エンジニアが品質用語を共通言語として使う職場は多くありません。本記事が示す「リファインメント会議への QA 参加」「開発実装レベルまで踏み込んだ協業」は、いわゆる「Shift-Left テスト」の実践例であり、kintone 上での業務システム開発や Salesforce カスタマイズを行う社内情報システム部門にとっても、テスト設計の上流参加を検討するきっかけになります。また、QA 組織が採用・教育・外部コネクトを業務として担うモデルは、QA 人材の獲得競争が激化する国内市場でのリテンション・ブランディング戦略としても注目に値します。
詳細
はじめに:外から来たばかりだから見える「すごさ」
この記事は「CYBOZU SUMMER BLOG FES ’26」の一本として、2026年4月にキャリア入社した QA エンジニアの いこ(@ico_penjelly)氏が執筆しました。入社4か月目という立場から、前職との比較も交えながらサイボウズの QA 組織の特徴を3点に絞って紹介しています。組織全体を網羅した客観評価ではなく、「外から来たばかりの今だから感じられる驚き」として書かれた一人称レポートです。
その1. 品質は QA だけのものではない
開発エンジニアも「品質用語」を使いこなす
これまでの職場では QA と開発の役割分担が比較的明確だった著者にとって、サイボウズでの光景は新鮮でした。著者のチームでは「この機能のここを改善したい」という検討段階から QA がディスカッションに参加し、開発エンジニアのリファインメント会議にも加わります。
「作ったものをテストする」から「そもそも何をどう作るか」を一緒に考える、という関与の仕方の変化です。
驚きの一場面として著者が挙げるのが、会議で QA 以外のメンバーから「当たり前品質(なくて当然と思われる品質)」 という QA 専門用語が自然に出てきた瞬間です。QA 側の専門用語がチーム・社内の共通言語として機能しているのは、品質意識が組織に浸透している証左だと著者は捉えています。
新人研修が品質文化の土台になっている
この背景の一因として著者が挙げるのが、エンジニア向け新人研修です。サイボウズのエンジニア研修には品質関連の講義が複数組み込まれており、以下のコンテンツが含まれています(講義資料は2025年版が公開済み)。
- 「ソフトウェアテスト」「自動テスト」の講義
- 「サイボウズのアジャイル・クオリティ」:品質を「誰かにとっての価値」と捉え、チーム全員で支えるものとして説明
開発エンジニアが入社直後にこれらの研修を受けることで、チームだけでなく会社全体での品質意識の高さが維持される土壌が形成されているというのが著者の見立てです。
その2. QA の守備範囲が、広くて深い
チームレベルの「深さ」
著者が入社して面食らったことの一つが、QA に求められる知識の幅と深さです。著者のチームでは、QA メンバーも開発の実装方針をかなり細かいレベルまで把握しながら業務を進めます。開発エンジニアと日々コミュニケーションを取りながら協力するスタイルのため、実装の話を理解していないと対話の質が下がるからです。
「テストをどこまでやるか」という判断においても、QA が自らの見解を持ち、開発エンジニアと意見を交わしながら決定します。一方でプロダクト知識の面では、QA がチームから頼られる場面もあると著者は述べています(「追いつくのに毎日必死」という正直な告白つきで)。
QA ギャザリングで見えた組織レベルの「広さ」
「自分のチームの QA が特別なのかな?」という疑問が解消されたのが、QA 組織全体の交流イベント「QA ギャザリング」でした。チーム紹介の LT(ライトニングトーク)で把握できた取り組みの例は以下の通りです。
- AI を活用したテスト自動化を推進するチーム
- 脆弱性診断・セキュリティテストを担うチーム
- 開発環境・インフラ基盤の品質と安定性に取り組むチーム
- 理想的な自動テストの構成や品質基準そのものを設計する活動
約60名の QA 組織の中に、これだけ多様な専門性が同居していることを著者はギャザリング帰りにしみじみ実感したといいます。QA 一人ひとりの守備範囲も「QA のどこが好きか」も個人差が大きく、その多様性が組織の厚みになっています。
その3. QA 組織が、採用も、教育も、外部発信も担っている
プロダクト業務とは別に、QA 組織そのものを支える専任の支援チームが存在します。著者の整理によれば、活動は「内向き」と「外向き」の2方向に向いています。
内向き:組織内の学びとつながりを回す
| チーム名 | 主な活動 |
|---|---|
| 学習支援チーム(ミネルヴァ) | 社内勉強会・LT 会の企画運営、新卒向け入門研修、外部講師招聘 |
| コミュニケーション促進チーム | 社内コミュニケーション活性化イベント、年2回の Gathering Day 企画 |
外向き:外の世界とつながり、仲間を迎え入れる
| チーム名 | 主な活動 |
|---|---|
| 採用チーム | 新卒・キャリア別の担当チーム、選考・スカウト、QA インターン運営との連携 |
| 外部コネクトチーム | JaSST などイベント協賛、自社イベント開催、社外登壇支援 |
「有志活動」ではなく「業務」として成立
著者が特に強調するのは、これらの活動が有志のボランティアではなく、正式な業務として成立している点です。「サイボウズらしい」と著者が感じる部分でもあります。
キャリアの多様性も特徴
QA メンバーの背景は、元ソフトウェアエンジニア、カスタマーサポート経験者など多岐にわたります。一方で QA 出身でプロダクトオーナーとして活躍している方もおり、「QA に入ったらずっと QA」という固定キャリアパスでもありません。他職種を期間限定で経験できる「体験入部」制度も整備されています。
また、QA がほぼ全員社員で構成されており、採用も外部任せにせず QA 自身が「一緒に働きたい人」を選んでいることが、組織の一体感と話しやすい空気を生み出しているとも著者は分析しています。
おわりに:「すごい」環境だからこそ力不足を感じる毎日
3つの「すごい」を並べながら、著者は正直な現状も吐露しています。
- 組織全体では QA が60名の大所帯ですが、各チームの QA は少人数構成のため、必要な知識は自らキャッチアップしないと業務が回らない
- 受け身で待っていれば仕事が降ってくる環境ではない
- 逆に自由度が高く、やりたいことに自ら手を伸ばせば掴める
「60名分の知見が兼務や勉強会・LT 会を通じて組織内を行き来しており、聞けば誰かが答えを持っている」という環境と、「自分で動かなければ何も起きない」という環境が同居しているのがサイボウズ QA の実態です。
4か月後・1年後の自分がこの記事を読み返したときにどんな景色が見えているか、いつか書きたいと結ばれています。