記事のサマリー(TL;DR)
- freeeの権限管理基盤チームで元マネージャーを務めたsentokun氏が、「視座を上げる」という概念を、「様々な人(やその立場)を主語にものごとを語れるようになること」として説明しています。
- 新しい視点を得るには「視点の認知」「構造理解」「当事者としての変換」「当事者としての行動」という4つのステップが必要であると述べ、筆者自身の経験に基づく4つのエピソード(個人→チーム、チームタスク→メンバー自身、チーム→担当領域、担当領域→会社)を紹介しています。
- まとめとして、「周囲に対する解像度をとにかく上げる」という行為そのものが「視座を上げる」ことだと筆者は理解しているとしています。
詳細
1. 「視座を上げる」=「様々な人を主語に話せるようになる」
筆者は、「視座を上げろ」「経営者視点を持て」といった言葉に対して、抽象的で難しいという印象を持つ人が多いと述べています。しかし筆者自身は、「視座を上げる」ことはそれほど大げさな話ではないのではないかと考えるようになったとしています。
筆者の定義によれば、「視座」とは様々な人(やその立場)が持っている視点のことであり、「視座が高い」とは、異なる視点の解像度を高めることで広くものごとを見られるようになった状態を指します。エンジニアにとって親しみのある言葉で言えば「変数」に置き換えることもできるとし、ものごとに関わる変数(自分・チーム・ステークホルダーなど)がどれだけあり、それらがどう関わり合っているかの解像度を高めることだと説明しています。
「視座」に高さや「上がる」という表現がつくのは、視点が増えることでものごとが広く・遠くまで見渡せるようになるためだとしています。また、今まで知らなかった視点は、多くの場合、先輩や上司、経営者など自分より経験の長い立場の人が持っていることが多く、これが「視座=上」と感じる要因の一つかもしれないと述べています。
筆者は、メンバー、リーダー、隣のチーム、各事業のマネージャー、経営者、ユーザーなど、自分の仕事に関わる様々な人の視点を理解し、それを自分の言葉で語れるようになること・腹落ちすることが重要だとしています。「視座」を意識する際の物差しとして、「その人を主語にして状況を語れるようになること」を挙げています。
なぜ様々な人の視点を持つことが必要なのか
筆者は、解像度を上げた視点の使い道を「自分への期待値を乗りこなし、飛び越えるため」だと説明しています。「経営者視点を持て」という言葉は、実際の経営上の意思決定を求めているわけではなく、「経営者視点を理解し、自チームが事業にとって価値のある成果を出せるよう考え、行動する」ことが求められていると述べています。
この行動は、優先順位の上がったプロジェクトをいつ差し込むか、技術的負債と機能開発のどちらを優先するか、PRのコード品質にどこまでこだわるかなど、あらゆる場面で発生しうるとしています。これらに唯一の正解はなく、状況によって変わるため、判断を適切に行うには具体の解像度と周囲の視点に対する解像度の両方が必要だと筆者は述べています。
2. 「視座を上げる」際に必要な4つのステップ
筆者は、新しい視点を得て「視座を上げる」ためのステップを次の4つに整理しています。
- ステップ1:新しい視点を持つ人に気づく(視点の認知)
- ステップ2:その視点の構造理解を深める(課題・意図の理解)
- ステップ3:その視点を自分の言葉で話せるようになる(当事者としての変換)
- ステップ4:その人の視点を自分の判断軸に加える(当事者としての行動)
新しい視点は自分の感覚の外にあるため、気づくこと自体が難しく、対話やインプットを通じて取り入れる必要があるとしています。また、その視点が自分にないものであるというメタ認知も必要だと述べています。
ステップ1を越えた後は、その視点が何を意識しているのか、なぜそうなのか、どうすれば得られるのかといった背景や課題、意図を理解する必要があるとしています。違いに気づいても読み解けなければ「自分とは違う」で終わってしまうと指摘しています。
ステップ2で理解が深まった後は、それを自分のものにして使いこなし、自分で説明・行動できるようにする必要があるとしています。なお、このプロセスを自分自身がすべて実行する必要はなく、AIや周囲の人に実行を任せつつ、自分が当事者として実行することを決める、という形でも当事者として行動できている状態と言えると筆者は述べています。
3. 「視座を上げる」4つの実体験エピソード
筆者は、自身の実体験にフィクションを交えたエピソードとして、次の4つの視点の変化を紹介しています。
【個人→チーム】 がむしゃらにチームに貢献できることを探し、チームを主語にタスクを進める
筆者が若手だった頃、現場で利用しているOSSの脆弱性が見つかったものの担当者が不在で対応に困っていた状況があったとしています。筆者は手を挙げて手探りで対応を進め、誰も知らない作業を深掘りすることで担当領域の理解が深まり、チームが担当する製品への解像度を上げることができたと述べています。筆者は、停滞していることに手を挙げて取り組めば自身の解像度も上がり、ものごとも前進するとし、「たたきを作る人は偉い」と常々思っていると述べています。
【チームタスク→メンバー自身】 チーム内の解像度を上げ、チームメンバーを主語にチームに向き合う
筆者が小さなチームのリーダーになった際、期待に応えようと意気込み、とにかく新しいことに挑戦するのが正義だと考え、経験が浅いメンバーに対しても自分で考えて動くことを要求していたとしています。その結果、メンバーの適性やキャパシティを見ずに過度な期待をかけ続けてしまい、メンバーが疲弊していったと述べています。最終的にチームを去る人も現れ、チームは成果を出せず、メンバーや役割を入れ替えてテコ入れすることになったとしています。筆者は、チームとしての理想だけでなく、メンバーの状態や能力、モチベーションという視点を持つことが当時の自分に必要だったと振り返っています。
【チーム→担当領域】 チームへの期待値の解像度を上げ、自領域を主語にめざす状態を描く
その後マネージャーとなった筆者は、リーダーの役割を定義し、メンバーが開発に集中できる環境を作り、チームが成果を出す状態について一定の手応えを感じていたとしています。一方で、チームが自己決定できる状態にはなりきれておらず、ギクシャクしていたと述べています。原因は、周囲がチームに求める期待値を筆者自身が自分の言葉で語れておらず、ロードマップ変更時も言われたことをそのままメンバーに伝えるにとどまっていたためだとしています。これは筆者自身のロードマップ変更への背景や投資意図に対する解像度の低さ、そしてメンバーの居心地を気にしてフィードバックを躊躇していたことが要因だったとしています。この状態を解消するため、筆者はメンバーと腹を割って対話を重ねて関係性を修復し、周囲のマネージャーやステークホルダーとも対話を重ねてロードマップや優先順位の背景への理解を深めたと述べています。
【担当領域→会社】 全社ビジョンへの解像度を上げ、会社を主語に自領域が生み出す価値を示す
担当領域全体のエンジニアリングマネージャーとなった頃、ドメインやチームメンバー、プロダクトへの解像度は持っていたもののプロダクトは前進する一方、領域を越えて周囲のチームに刺さる成果が出ていなかったとしています。原因として、会社のミッション・ビジョンや事業への解像度が低く、事業の中で自分たちのプロダクトがなぜ必要で、どのような価値を生み出すべきかの接続が不足していたと述べています。
このような場合、ロードマップや優先順位、チーム体制を自分の中でいくら考えても、自分の見えている視点以上の成果が出る構造にはならないとし、社内の変化を自領域に取り込む感度や、開発がユーザーにどう利用されるかの具体性も不足すると述べています。答えのない課題を解くには仮説検証を繰り返す必要がありますが、事業と接続する視点がないと、試行錯誤しても領域内で閉じた仮説しか出てこないとしています。
筆者は、欲しい視点の羅針盤は「この会社が出したい価値」そのものだとし、自身にとって有効だった取り組みとして、会社全体のミッション・ビジョンを分解することを紹介しています。freeeの「スモールビジネスを、世界の主役に。」というミッションに立ち返り、マインドマップを作って深掘りしたと述べています。なぜスモールビジネスなのか、どんなペインを解消したいのか、なぜ複数のプロダクトを提供しているのか、なぜ統合型ソリューションを選んだのかといった問いを掘り下げ、社内資料も参照して理解を深めたとしています。また、freeeがSaaS事業会社として売上を上げる仕組みについても、書籍『PLG プロダクト・レッド・グロース』などを通じて解像度を深めたとしています。
ミッションへの理解を広げた上で、改めて自領域の価値を考えると、例えば次のように語れるとしています。スモールビジネスの人たちはバックオフィスや経営にまつわる業務をfreeeに任せることで自分たちの専門性に向き合い活躍できる世界を作れる。その世界が広がると事業も拡大しバックオフィス業務の範囲も広がる。この規模の業務もfreeeを使えばなんでもできる世界にするには、freee上で幅広いバックオフィス業務が統合された体験を得られることが重要となる。そのためには、業務データの「統合」と、それを安全に実現するための「認証認可」の統合が不可欠であるとしています。筆者は、この内容は別資料「認証認可基盤開発エンジニアについて – Speaker Deck」で語られているチームのミッションと変わらないとしつつ、なぜを突き詰めて事業と接続するためには上位の世界から解像度を上げていくことが重要だと述べています。
4. まとめ:まずは周囲の解像度を上げ、語れる主語を増やそう
筆者は、期待値に苦しんでいる人に向けて自身が当時知りたかったことを詰め込んだとし、まとめると「周囲に対する解像度をとにかく上げる」という行為が「視座を上げる」という言葉の意味だと自分なりに理解していると述べています。