記事のサマリー(TL;DR)
- ZML が LLM 推論サーバー「LLMD」を無償公開。Nvidia・AMD・Google TPU・Apple Metal・Intel Arc など複数チップに対応
- チューリング賞受賞者 Yann LeCun、Hugging Face 共同創業者、Docker 創業者 Solomon Hykes ら著名エンジェルが出資。調達総額は 2,000 万ドル
- 競合の Baseten(評価額 130 億ドル)や vLLM 系の Inferact に対し、ZML はチップの共同設計まで含むより広域な戦略を掲げる
国内 AI 推論基盤・マルチチップ戦略を検討する企業への影響
AI 推論コストの高騰は日本企業も例外ではなく、GPU 調達難・電力コスト増の文脈で「チップを選ばない推論基盤」への需要は高まっています。LLMD が標榜するのは、Nvidia 以外の AMD・Intel Arc・Google TPU・Apple Metal を組み合わせることでコストと消費電力を最適化できるという構成です。国内では AWS・GCP・Azure といったクラウドを複数組み合わせるマルチクラウド運用がすでに一般化しており、チップ層でも同様の分散調達戦略を取りやすくなります。現時点では LLMD は無償提供でユーザー行動を計測する段階にあり、将来の有償化タイミングや価格体系は未定です。本番導入の判断は採用実績と OSS コミュニティの成熟度を見極めてからが現実的です。また、Hugging Face との関係を持つ創業メンバーが株主にいることは、Hugging Face 上で公開されているオープンソースモデルとの親和性という点でも注目に値します。
詳細
ZML/LLMD とは何か
ZML(ゼットエムエル)は、パリに本拠を置く AI スタートアップです。創業者の Steeve Morin 氏は、Snapchat が9桁ドル(2017年)で買収した位置情報アプリ Zenly の VP of Engineering を務めた経歴を持ちます。
今回リリースされた ZML/LLMD は LLM 推論サーバーで、以下のチップ上でオープンソース LLM を動作させられます。
- Nvidia GPU
- AMD GPU
- Google TPU
- Apple Metal
- Intel Arc
Morin 氏が TechCrunch に語ったところによると、同社の目標は「既存のサイロを壊し、異なるチップを AI ユースケースで最大速度、ときにはそれ以上の速度で活用できるようにすること」です。
推論市場が「ゴールドラッシュ」になっている背景
AI の実用化が進むにつれ、モデルのトレーニングよりも推論(inference)——つまりプロンプトを処理する工程——の最適化が重要性を増しています。しかし現状では、ソフトウェアとアーキテクチャの壁がベンダーロックインを招いており、裏側の実装は「パッチワーク的」になりがちだと Morin 氏は指摘します。
この市場には強力な競合が存在します。
| 企業 | 背景・評価額 |
|---|---|
| Baseten | 評価額 130 億ドル(約2兆円) |
| Inferact | OSS プロジェクト vLLM の開発者が設立 |
| RadixArk | SGLang の商業化企業 |
vLLM と SGLang はいずれも LLMD と部分的に競合しますが、Morin 氏は ZML の射程がより広いと強調します。「私たちはすでにシリコンの共同設計(co-designing silicon)の段階に達している」と述べており、チップ設計レベルへの関与を視野に入れています。
Nvidia との関係と欧州チップエコシステム
ZML は Nvidia と良好な関係を維持しているとのことで、Morin 氏は Nvidia を否定的に見ているわけではありません。同社がソフトウェアで支援したいのは、欧州を中心とした新興チップメーカーです。記事中では以下の企業が挙げられています。
- Axelera、Fractile、Kalray、OLIX、Q.ANT、SiPearl、SpiNNcloud、VSORA
「世界のどこでもまだ実現されていないことに一緒に取り組める」と Morin 氏は語っています。
資金調達とキャップテーブル
ZML はこれまでに 2,000 万ドルを調達しています。出資者には以下が含まれます。
- 20VC(Harry Stebbings 氏のファンド)
-
commit、AALVC、Drysdale Ventures
- Kima Ventures(Xavier Niel 氏)
- Kindred Capital、LocalGlobe、Puzzle Ventures
また、エンジェル投資家として次の著名人がキャップテーブルに名を連ねています。
- Yann LeCun(チューリング賞受賞者、現 AMI Labs)
- Solomon Hykes(Dagger・Docker 創業者)
- Clément Delangue・Julien Chaumond(Hugging Face 共同創業者)
チーム規模は 20人と小規模ながら、この資金力と人脈は業界における同社の存在感を裏付けています。
ビジネスモデル:まず無償、収益化は後から
LLMD は現在無償で提供されています。2024年にリリースされ2025年3月に更新された最初の公開プロジェクト(ML フレームワーク)はオープンソースでしたが、LLMD はオープンソースではありません。
Morin 氏は収益化についてこう述べています。「最初から欲張りすぎて成長を阻害するのは避けたい。まず計測し、最も効果的な場所で収益を生み出す」。有償化の時期や価格は現時点では未定です。