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2026.07.26

AIデータセンターが電力網を不安定化――PJMグリッドで3.49GWの電圧急騰が発生

記事のサマリー(TL;DR)

  • ワシントンDC郊外の送電線断線により、PJMグリッドで3.49GWの電圧急騰が発生し、復旧まで11分以上を要した
  • 北バージニアのデータセンター群が約30秒で一斉にバックアップ電源へ切り替え、需給バランスを大きく崩した
  • ON.Energyが3GW規模のキャンパス向けUPSを導入中。ERCOTも大規模負荷への「ライドスルー」義務化を検討

日本のデータセンター事業者・電力安定化対策が注目すべきポイント

今回のPJM事案は米国固有の問題にとどまらず、データセンター集積が進む国内市場にも直接的な教訓を与えます。日本では東京・大阪圏を中心に大規模AIデータセンターの建設計画が相次いでおり、電力需給の管理は東京電力・関西電力など一般送配電事業者(TSO)との調整事項として既に顕在化しています。

特に注目すべきは「一斉切り離し(simultaneous disconnection)」のリスクです。同一変電所から電力供給を受ける複数のデータセンターが同じ電圧ディップを感知すれば、同様の連鎖反応が起きる構造的条件は日本でも成立します。ERCOTがライドスルー義務化を検討しているように、経済産業省・資源エネルギー庁がグリッドコード改定に動く可能性も視野に入れておく必要があります。

バッテリーを介して「一貫した負荷」としてグリッドに見せるON.Energyのアーキテクチャは、AIトレーニングワークロードの急激な電力変動を吸収する手法として、国内のハイパースケーラーやコロケーション事業者にも参考になる設計思想です。

詳細

送電線1本が引き起こした連鎖反応

2025年7月、ワシントンDC郊外で送電線が1本ダウンした。通常であれば数秒で復旧できるはずのイベントが、今回は10分以上かかった。その原因は、3ギガワット(GW)超のデータセンター負荷がほぼ同時にグリッドから切り離されたことにある。

IoTセンサーネットワークを運営するスタートアップ・Ting Labsが収集したデータによると、電圧の急騰はバージニア北部からシカゴにまで及んだ。停電(ブラックアウト)には至らなかったものの、広域で電灯のちらつきが発生した。

PJM Interconnectionの開示データによれば、送電線断線後に約3.1GWの負荷が約30秒で消失。一時的に復旧したかに見えたグリッドは、その後さらに負荷が脱落し、最大3.49GWの余剰電力がグリッド上に乗った状態となった。完全に安定するまでにさらに11分を要した。

「炭鉱のカナリア」——専門家が警告する増大するリスク

ON.EnergyのCTO、リカルド・デ・アゼベド氏はTechCrunchの取材に対し「これは炭鉱のカナリアだ」と述べた。大規模負荷を伴うこの種の事案は「ますます頻繁になっている」という。

今回切り離されたデータセンターは、事案発生時のPJM総需要の約3%に相当すると、Reutersは報じている。3%は一見小さな数字に思えるが、電力グリッドは需給が極めて精密に釣り合った状態で運用される必要がある。わずかな変動が閾値を超えると、グリッド側または個別施設側の保護回路が作動し、連鎖的な切り離しへと発展する。

Independent Electricity System Operatorのシニア市場モデル専門家、アリ・ザイン・バナトワラ氏はTechCrunchに対し、「隣接して立地するこれらの負荷が、順次切り離し・再接続する方法を見つける必要がある」と述べた。秩序だったプロセスがあれば、グリッド運用者は事前により堅牢な手順を構築できる。

ON.Energyのソリューション――データセンター全体をバッテリーで「隠す」

スタートアップのON.Energyは、こうした事案への対処を目的としたプロダクトを開発している。同社が開発したのは、サーバーだけでなくチラーなどの設備を含むデータセンターキャンパス全体をカバーする無停電電源装置(UPS)だ。

仕組みの核心は、データセンターを高度な電力変換装置に接続されたバッテリー群の「裏側」に隠すことにある。グリッドから見えるのは、各設備の個別ピーク・谷ではなく、「一貫して行儀よく振る舞う1つの負荷」となる。

具体的な効果は以下の通りだ:

  • AIトレーニングを含む計算ワークロードの増減をグリッドに影響を与えずに実行できる
  • グリッド側の電圧変動をバッテリーへの充電で吸収し、グリッドから切り離すのではなく、電力を受け入れる形で対処する
  • グリッドの変化にミリ秒単位で追従し、今週のPJMで起きたような電圧サグ・サージを未然に防ぐ

デ・アゼベド氏によると、ON.Energyは現在、4つの異なるデータセンターキャンパスに合計3GW分のシステムを導入中だ。

規制の動きと今後の見通し

グリッド管理者側も問題に気づき始めている。テキサス州のグリッド運用者ERCOTは、データセンターなど大規模負荷に対して電力変動を「ライドスルー(乗り越え)」することを義務付ける方向で動いているとデ・アゼベド氏は述べた。

時間的な切迫感は大きい。今週の大規模切り離しは、2024年に60のデータセンターが同時切り離しを起こしグリッドから1.5GWを引き抜いた事案の、実に2倍の規模に達した。

Synapse Energy Economicsによると、2024年時点でデータセンターはPJM需要の約6%を占めていた。2040年までにその比率は**24%**に達すると予測されている。問題が早期に対処されなければ、今後の事案はさらに深刻なものになりかねない。