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2026.08.08

Mobile Tech Flex #2 レポート:ディップ・ヤプリ・Voicy・サイボウズ4社合同「越境」LT勉強会

記事のサマリー(TL;DR)

  • 2026年7月23日、ディップ・ヤプリ・Voicy・サイボウズの4社合同モバイル勉強会を開催、エンジニア・QA・PdMら7名がLT登壇
  • Claude Code と Figma MCP を組み合わせたUI実装フロー、ADRによる設計判断ログなど、仕組みで越境ハードルを下げる具体例が紹介された
  • AI時代でも「動くものが作れるか」より「正しく動くことに責任を持てるか」が重要、という共通認識が各発表に通底

kintone・SaaS 開発チームが越境設計として参考にできるポイント

各発表を通じて浮かび上がったのは、「掛け声だけでは越境は進まない」という現場感だ。ドキュメントをコードと同じリポジトリに集約してADRで設計判断の歴史を残す手法は、kintoneやSalesforceの専用UI開発のように複数職能が同一コードベースに触れる場面でも即応用できる。また、Voicyの事例が示したように、AIで実装コストが下がった結果として「1人1プロジェクト体制でレビュー対象が約3倍になった」という認知コストの増大は、AIを業務システム開発に導入する際に見落とされがちなリスクだ。「AIができるところと人が判断すべきところを分ける」設計方針は、Claude Codeなどのコーディングエージェントを導入するチームが事前に合意しておくべき基準といえる。

詳細

イベント概要

Mobile Tech Flex は、モバイルアプリ開発に携わる人々がLT(ライトニングトーク)形式で知見を共有する合同勉強会です。「モバイルの勉強会で敷居が一番低いコミュニティ」を目指しており、エンジニアに限らずQA・PdMなど職能を問わず誰でも発表できるのが特徴です。

第2回となる今回のテーマは 「越境」。職能や技術領域の垣根を越えた挑戦の経験談が7本のLTで共有されました。会場はサイボウズ東京オフィスで、乾杯からスタートするカジュアルな雰囲気で進行しました。なお、転職ドラフトがオリジナルデザインのビールをビールスポンサーとして提供し、「ひと粒の種、万葉の選択肢。」「雨宿りの、サードプレイス」という2種類がふるまわれました。


LT (1):チームの仕組みで作る心理的ハードルを下げる越境

登壇者:ディップ 吉本さん(@tokotoko_kt)

新卒2年目のAndroidエンジニアとして、バイトルアプリのリニューアルプロジェクトに携わる吉本さんは、越境をためらう背景を「前提知識の壁」「設計思想の違い」「失敗への不安」の3つに整理しました。

AndroidとiOS各5名がKMP(Kotlin Multiplatform)を採用するチームでも、「チャレンジ大歓迎」という掛け声だけでは越境が進まなかった実情を紹介。そこでチームが取り組んだのが 仕組みによるガードレールの設置 です。

  • ユーザーストーリー・設計ドキュメントをコードと同じリポジトリに集約
  • ADR(Architecture Decision Record)で設計判断の履歴を保持
  • Claude Code と Figma MCP を連携したUI実装フローを構築
  • 各OSのビルド・テストをコマンド1つで実行できる環境整備
  • AIによる一次レビュー+担当OSエンジニアによる二重レビュー体制

その結果、現在では担当OSにかかわらずチーム全員が柔軟にタスクを取れる状態になったといいます。「仕組みでチーム全員の可能性を引き上げる」というメッセージは、後の発表の随所にも通底していました。


LT (2):Androidエンジニアが大規模プロダクトのWebフロントエンド・バックエンドへ越境して感じたギャップと習得したマインド

登壇者:サイボウズ トニオさん(@tonionagauzzi)

kintoneのAndroidエンジニアからプロダクトエンジニアへ転換し、Webフロントエンドとバックエンドのコードをあわせてコントリビュートするようになった自身の体験談です。

このLTのユニークな点は、単なる「モバイル→Web兼務」ではなく、AndroidアプリのコードベースとWebのコードベースを比較するとコード量が約60倍、開発者数が約20倍、歴史は2倍 という巨大なモノリシックなコードベースへの越境だったことです。開発環境セットアップのコスト、API公開後の仕様変更による広範囲への影響、バックエンドとモバイルのリリースタイミング制御の難しさなど、具体的なギャップが語られました。

それでも挑戦を続けられる理由として、「越境者という立場では、わからないことを安心して人に頼れる」「これまでのAndroidエンジニアとしての経験が土台にあるからこそ、Webの経験を積み重ねの1つとして感じられる」という2点を挙げました。

また、AIとの向き合い方について 「AIで楽をすると知識・経験は増えないが、AIで好奇心を満たせば着実に増え続ける」 というマインドを紹介。越境に挑む人へ向けた実践的なメッセージとして好評を得ました。


LT (3):QAから越境できるところに染み出てみた

登壇者:ヤプリ むがさん(@Cp6rrR)

AI活用事例が多く集まりそうな場で、あえて 組織とプロセスの越境 という普遍的なテーマを選んだのがヤプリのむがさんです。

1つ目:PdMとの垣根を越えて仕様書を直す
Confluence・Slack・Figmaなどに情報が分散し、仕様書と実態がずれていく課題に対して、PdMから仕様書修正権限を取得。QAが確認の場でリアルタイムに更新し、PdMとの定期認識合わせミーティングも設けることで、仕様書をほぼ最新状態に保てるようになりました。

2つ目:テスト設計をエンジニアに委譲する
開発ライン3本に対してQAが1人という状況で、テストケースの観点・考え方をエンジニアに伝えてレビューし、QAが全体俯瞰のスルーテストを行う体制を試行。「越境に大事なのは役割の移譲を判断すること。プロダクトの頭から後ろまで関わるQAこそ、フラットな目線でどこに手を出せるか判断できる」という言葉が印象的でした。


LT (4):越境するプロダクトエンジニア

登壇者:Voicy tomoさん(@tomodev0015)

Voicyでは2026年2月から 全エンジニアがプロダクトエンジニア化 する組織移行を実施。iOSエンジニアだったtomoさんも、iOS・Android・Web・バックエンドすべてを担当することになりました。

AIの活用で実装コストは劇的に下がり、専門外の領域でもiOS開発時代とほぼ同等のスピードで実装できるようになった一方、認知コストの増大 という問題も浮上しました。AIの生成スピードが人間の理解スピードを大きく上回るため、レビューすべき生成物が約3倍になったといいます。特にDBのテーブル設計やSQLのパフォーマンスなど、なじみのない領域では「何があるべき姿か」の判断が難しかったとのことです。

「動くものは簡単に作れるようになったが、正しく動くことに責任を持つのがエンジニアの役割であり、AIができるところと人が判断すべきところを分ける必要がある」という結論は、AI時代の越境論として多くの共感を集めました。


LT (5):エンジニア兼PdMが企画を通すためにやったこと

登壇者:Tamonさん(@horitamon)

8割PdM・2割エンジニアとして働くTamonさんは、AIで実装が一瞬で終わるようになった結果、工数の7割が企画の時間になったと語りました。エンジニア主導で企画に越境したものの、最初の半年は1件も通らなかったといいます。

その後、兼務をやめて企画にフォーカスし、PdMの動きをトレースすることで 2か月で5件の企画を通す ペースに改善。企画を通すためのポイントとして「課題を明確にする」「使われない機能を作らない」「ジョブから理解する」の3点を挙げました。「検索機能が欲しいというユーザーの声に直接応えるのではなく、本当の困りごとを深掘りすると実は検索機能は不要だったケースもある」という具体例が説得力を持っていました。


LT (6):輪読会を開いて他職種の人と交流を持とう

登壇者:mikanさん(@mikanIchinose)

Androidエンジニアのmikanさんは、ここ2〜3年で6回の輪読会を開催。デザイナーとWeb技術入門書を読んだり、バックエンドエンジニアとデータモデリングの書籍を読んだりしてきた経験を共有しました。

「同じ段落を読んでも職能によって引っかかるポイントがまったく違う」ため、1人では気づかない発見が生まれ、本を媒介にすることで角の立たない議論が生まれやすいといいます。読み終わる頃にはチームに 共通言語 ができているという副産物も紹介されました。

続けるためのコツは「限界まで緩くすること」——少人数、予習なし、交代で音読するだけ、記録も取らない。一番忙しい時期の状況に合わせてスタイルを設計するのが長続きの秘訣とのことです。


LT (7):iOS/Androidの二刀流エンジニアがFlutter & TypeScriptへ越境後の現在地

登壇者:フミヤさん(@fumiyasac)

ホームハブアプリ開発に携わり、Flutter・TypeScript歴はちょうど入社からの半年というフミヤさん。iOS/AndroidネイティブからFlutter、バックエンドはTypeScriptへと技術スタックが大きく変わった中で、技術面より大変だったのはドメイン知識の越境 だったと語りました。

スマートロックを中心とするIoTデバイス・不動産・認証が複雑に絡み合うプロダクトの仕様背景は、業務に入ってみて初めてわかることが多かったといいます。ブレイクスルーになったのは、新製品対応でアプリ・デバイス・ファームウェア・ハードウェアを一気通貫で見られた経験と、お問い合わせ対応でした。業務知識をAIも活用しながら 専用ドキュメントとして整理し、ナレッジベースを育てる 取り組みも紹介されました。

「未知の領域を楽しむ」「これまでの経験とリンクさせる」「知見を深める機会を自分で作る」という3つの心構えで締めくくられました。


懇親会とアンケート

LTセッション終了後は軽食とドリンクを囲みながら懇親会を実施。参加者アンケートでは「複数社合同でさまざまなプロダクトの話を聞けるのが良かった」「エンジニア・PdM・QAあらゆる視点からの越境話が学びになった」「越境というテーマは意外と焦点が当たらないところだったので面白かった」などの声が寄せられました。


運営ふりかえり

分類 内容
Keep(良かった点) 開放感のある会場、4社スタッフの連携、早めの参加募集開始
Problem(改善点) 開場中の無音、LT時間の超過、軽食の配布ムラ
Try(次回への改善案) 開場中のBGM設置、スケジュール設計の見直し、軽食の配置改善

まとめと次回予告

今回のMobile Tech Flex #2では、AIによって越境のハードルが下がった今だからこそ、仕組み・マインド・人と人との関わり方 が重要になるという共通の気づきが各発表に通底していました。

Mobile Tech Flex #3は2027年1月〜3月頃の開催を予定。日程・会場が決まり次第、connpassおよびSNSで告知されます。