記事のサマリー(TL;DR)
- Anthropicの15億ドル著作権和解金(約500,000作品に1作品あたり3,000ドル)の支払いが2025年7月に最終承認
- HarperCollinsなど出版社が権利消滅済み作品や自社取り分50%超を請求するケースが多発
- 文芸エージェントも支払いの一部を請求する動きがあり、Authors Guildと著者が強く反発
国内AI学習・著作権ライセンス動向と日本の出版・コンテンツ事業者への影響
Anthropicをめぐるこの事例は、AI学習データと著作権の交点における「和解後の分配」という実務的な問題を浮き彫りにしています。日本では2023年に著作権法30条の4の解釈をめぐる議論が続いており、商用AI学習と非商用の線引きは依然不明確です。今後、国内でも同様の集団訴訟や業界団体による和解スキームが整備される可能性があり、「権利の帰属時期と証跡管理」が分配の適正さを左右する点は日本の出版社・電子書籍プラットフォームにとっても直接の示唆となります。版権管理データベースの整備や契約書の電子保管体制が不十分な事業者は、和解スキームへの参加・分配請求の両面でリスクを抱えることになります。また、日本の文芸エージェント業は欧米ほど普及していないものの、著者代理業務を担う事業者がAI関連の著作権収益に何らかの権利を主張できるかどうかは、今後の契約設計において検討すべき論点です。
詳細
Anthropic 著作権和解の概要
Anthropicは2024年、AI モデルのトレーニングにおける著作権侵害を問う集団訴訟(class action suit)を和解で決着させました。担当判事は「著作権のある素材をAI学習に利用すること自体はフェアユース(fair use)の範囲内」と判断した一方、「その素材を海賊版として入手すること」は違法と認定しました。
和解総額は15億ドル(約2,250億円)。最終承認は2025年7月に下り、支払いの実施が可能になりました。
支払い条件
対象は約50万タイトルの著者で、海賊版として使われた1作品あたり3,000ドルを受け取る権利があります。配分ルールは以下のとおりです。
- 版元が現在も版権を保有する作品(in-print): 著者と出版社で50対50の山分け
- 自費出版作品、または版権が著者に戻っている作品(out-of-print): 著者が100%受領
出版社による「過剰請求」報告が相次ぐ
ところが和解金の支払い通知が届き始めると、SNS上では著者からの苦情が噴出しました。ミステリー・スリラー作家のApril Henryは次のように訴えました。
「HarperCollinsは一体何をやっているのか?少なくとも17年前に権利が戻った私の作品にクレームを入れていた。しかも同じ日に、HarperCollinsが私の”雇用主”として信用照会に追加されたという通知まで届いた。彼らは一度も私の雇用主だったことはない」
著者向け啓発ブログ「Writers Beware」のVictoria Straussは、寄せられた苦情を2種類に分類しています。
- 権利がすでに著者に戻っているにもかかわらず、出版社が支払いを請求するケース
- 50%の取り分しかないにもかかわらず、出版社が100%を請求するケース
Straussは「悪意によるものと決めつけるより、記録管理の不備で説明できる」と述べながらも、「過去2日間に受け取った報告の数が異常に多く、しかも同じエラーが繰り返し報告されている点が気になる。大規模オペレーション特有の軽微なバグではなく、より広範かつ構造的な問題である可能性がある」と警告しています。一部の出版社はすでに「ミスだった」と認め、Anthropicに修正を求めているとも報告されています。
Authors Guild も「悪意ではなく記録管理の問題」と診断
Authors Guild(全米作家協会)のCEO、Mary Rasenbergerは『ニューヨーク・タイムズ』の取材に対し、「出版社が意図的に著者を騙しているとは見ていない」と語り、「不十分な記録管理と複雑な和解プロセスが招いた、予測可能な結果だ」と述べました。
文芸エージェントまで支払いに手を伸ばす
問題はさらに複雑です。Straussによれば、文芸エージェントも一部の支払いに対してクレームを入れているケースが報告されています。彼女は「エージェントは書籍の権利保有者ではない」として驚きを表明しました。
元ロースクール教授でもある作家Courtney Milan(本名Heidi Bond)はBlueskyで「エージェントがAnthropic和解金のパーセンテージを請求しようとしているようだが、まったく同意できない。そんなことはやめてほしい」と直言しています。
請求への異議申し立て方法
MilanとAuthors Guildは、著者が自身の配分に異議を申し立てる方法の詳細を共有しています。注意すべき点として、著者が100%を請求できる権利戻し(rights reversion)は、和解の基準日である2022年8月10日以前に発生している必要があります。この”ダウンロード日”以降に権利が戻った場合は、出版社との50対50の分配が適用されます。