記事のサマリー(TL;DR)
- 元SpotifyイノベーションヘッドのZonoozyが創業、プレシードで550万ドル調達
- AI全面採用を意図的に避け、インタラクティブな音楽体験アプリを「シングル」方式で連続投入
- iOSアプリ「bop」ではTikTok・Instagramへのミックス書き出しに対応、マルチプレイヤー機能も開発中
国内の音楽テック・エンタメ系スタートアップが注目すべき「参加型音楽体験」の設計思想
「A Vinyl Bar in Shibuya」というスタートアップ名は、渋谷のアナログレコードバーを想起させるが、実体はシリコンバレー発の音楽体験スタートアップだ。同社の設計思想は、日本国内の音楽・エンタメ系プロダクト開発に示唆を持つ。
国内では生成AIを活用した楽曲生成ツールへの関心が高まっている一方、ユーザーが「作る・触る・共有する」体験を中心に据えたプロダクト設計は依然少ない。同社が示すのは、AIを”全面採用”せずともコンシューマー向け音楽アプリの差別化が図れるという事実だ。YouTubeをサンプラーに変換する「Sampler」や、ブラウザ内音声のスピード・フィルターを変える「Speed Surfer」など、既存インフラに小さく乗っかる形での製品投入は、日本のB2C SaaSやエンタメ系スタートアップが参考にできるプロダクト戦略だ。
また、TikTok・Instagramへの書き出し機能を初期から搭載することで、SNSを獲得チャネルに組み込んでいる点も、国内EC・コンテンツ事業者がユーザー生成コンテンツ(UGC)施策を設計する上で参考になる。
詳細
「A Vinyl Bar in Shibuya」とは何者か
「A Vinyl Bar in Shibuya(ア・ヴァイナル・バー・イン・シブヤ)」は、インディーバンド名のような社名を持つ音楽スタートアップだ。生成AI全盛の時代に、あえてAIによる楽曲生成より「人が音楽に参加・干渉する体験」に特化した小型アプリを連続リリースする戦略をとっている。
プレシードラウンドでは550万ドルを調達。出資者には Mantis VC、SV Angel、BoxGroup、Quiet Capital、Remarkable Ventures、Common Metal、Gold House、Liquid 2 Ventures、Breakers VC、Collaborative Fund、Systemic Ventures が名を連ねる。加えて、元Spotifyのチーフコンテンツ&広告ビジネスオフィサーであるDawn Ostroffがアドバイザーとして参画している。
創業者:Máuhan M. Zonoozy
創業者のMáuhan M. Zonoozy(マウハン・ゾノーズィ)は、Spotifyのイノベーション責任者を務めていた人物。それ以前は動画クリッピング・リミックスのスタートアップ「Bubbl」を創業し、Cricket Mediaに売却した経歴を持つ。2024年にSpotifyを退社し、今回の起業に至った。
「ストリーミングはアクセス問題を解決したが、音楽との関わりはいまだ”消費”が中心だ。ゲームや加工フィルター、クリエイティブツールを通じて文化と遊ぶ世代を見て、音楽でも同じことができると感じた」とZonoozyはTechCrunchに語っている。
「シングル」方式で投入される小型アプリ群
同社はプロダクトを「シングル」に見立て、アルバムの一部として連続リリースする。共通テーマは「音の要素に触れて遊ぶこと」。現在展開中の主なアプリ・サービスは以下の通り。
- Speed Surfer:ブラウザで再生中のサウンドのスピードとフィルターを変えるChrome拡張
- Usersound:各文字が音符に対応する「音声ユーザーネーム」を作成できるウェブサービス
- Stacks:3×3グリッドのバーをオン・オフしてミックスを作るステムプレーヤー
- Drops:パターン状に配置したプレートに向けてマーブルを落下させ、音符を生成するパズル型ツール
- Sampler:YouTubeの動画を楽曲のビートに基づいてサンプラーに変換するウェブサービス
主力iOSアプリ「bop」
同社の最も野心的なプロダクトは、iOSアプリ「bop」だ。グリッド上に楽器やエフェクトを配置し、ベース楽曲の異なるミックスを作成できる。テンポ調整やワンタイムエフェクトの追加も可能で、作成したミックスはTikTokやInstagramへ直接書き出せる。現在はマルチプレイヤー版も開発中で、ほかのユーザーとリアルタイムで楽曲をリミックスする機能を実装予定だ。最近、プロンプト入力によるサウンド生成機能も追加された。
AIについての明確なスタンス
Zonoozyは、AIをあらゆる機能に組み込まないことを「意図的な選択」と表現している。インフラ構築やプロダクト開発にAIを活用することには積極的だが、楽曲生成にとどまらないとするスタンスは明確だ。
「AIは明らかに非常に強力だが、音楽の未来がただの楽曲生成だとは思っていない。AIがコンテンツを大量に生み出すなら、むしろ人間の感覚・視点・参加・体験がより重要でより価値を持つようになる。それが希少になってしまわないようにしたい」と同氏は述べた。
今後の展開
同社は今年中に「musical sandbox mixer(ミュージカル・サンドボックス・ミキサー)」と呼ぶ製品のリリースを目指している。楽器のゼロからの作成も含め、音楽制作のさまざまな要素を自由に試せる環境を提供する予定だ。