記事のサマリー(TL;DR)
- Googleは、世界各地でのAI利用状況を示す「AI & Economy ATLAS」のデータを探索しやすくする新しいインタラクティブなオープンアクセスの体験版を公開しました。
- ATLASのデータから、インドのクリエイティブ産業や米国の技術職におけるAI利用率の高さなど、職種・国別のAI利用傾向が明らかになりました。
- Google、Google DeepMind、MIT FutureTechの共同研究により、科学者がAIをどのように仕事で使っているかについての新たな分析結果が示されました。
詳細
AI & Economy ATLASとは
Googleの「AI & Economy ATLAS」は、オフィスや研究室、クリエイティブスタジオなど、世界中の人々が日常でAIをどのように使っているかを示すデータです。この記事はZanna Iscenko氏(AI & Economy Lead, Chief Economist’s Office)とScott Strand氏(Head of StratOps and Special Projects, Technology & Society)によるものです。
ATLASのデータからは、例えば次のような傾向が示されています。
- インドのクリエイティブ産業は世界平均より高い割合でAIを利用しており、アート・デザイン・メディア関連の職種が仕事上のAI利用全体の19%を占めています。これは世界平均の1.6倍に当たります。
- 米国は技術系のAI活用で先行しており、コンピューター・数学関連職が仕事上のAI利用全体の30%を占めています。これは他地域の2倍の割合です。
Googleは、ATLASが持つ数百万件規模のグローバルなデータポイントを探索しやすくするため、新しいインタラクティブなオープンアクセスの体験版を公開しました。これにより、電気工事士から購買マネージャーまで、さまざまな職種のAI利用率を詳しく見たり、家庭でのAI利用のあり方を調べたり、世界各国のAI導入率を確認したりできるようになります。
職種・地域別のAI利用傾向
ATLASのデータは、世界各地の職種ごとのAI導入状況や、地域ごとの特徴的な傾向・利用パターンを示しています。
- 職種別のAI利用:OECD加盟国では、コンピューター・数学系職種および事業・財務オペレーション系職種がAI利用で上位を占めています。一方、非OECD加盟国では、事務・管理サポート職、アート・デザイン・エンターテインメント・スポーツ・メディア関連職、教育指導・図書館関連職が上位となっています。
- 所得水準と導入率の関係:AI導入率は一般的にその国の所得水準と相関しますが、ブラジルやアラブ首長国連邦(UAE)は、一人当たりGDPから予測される水準よりも高い導入率を示す例外として挙げられています。
- 手作業関連タスクでのAI利用:リアルタイムの設備診断やトラブルシューティングでのAI利用率は地域によって大きく異なります。ブラジルとドイツでは、仕事上のAI利用の7%が手作業関連タスクに向けられており、これは世界平均の1.4倍に当たります。これに対し、日本では4%にとどまっています。
科学者によるAI利用の実態
新たな研究は、科学者が仕事の中でAIをどのように利用しているかについても明らかにしています。Google、Google DeepMind、MIT FutureTechによるこの研究は、ATLASのデータを基にしており、2600件の専門特化型AIモデルの分析と、米国・英国の科学者600人超を対象とした調査から構成されています。これらはすべて、科学者の業務内容を体系化するMIT FutureTechによる新しい分類体系(タクソノミー)を用いて整理されています。
この研究によれば、科学者は他の多くの職種よりも高い割合でAIを利用しており、調査対象の科学者のおよそ半数が何らかの形で毎日AIを使用していると報告しています。科学者は大規模言語モデル(LLM)と専門特化型モデルの両方を利用していますが、それぞれ異なるタスクに使い分けています。Geminiのような大規模言語モデルの利用は、幅広い科学分野・タスクカテゴリーにわたって見られる一方、専門特化型AIモデルは、健康・生命科学分野や、分野特化型のデータ予測・生成・シミュレーションタスクで比較的よく使われる傾向にあります。
科学者はAIによって大幅な時間節約を実感していると報告しており、その節約時間は週あたりおよそ7時間弱にのぼり、研究によりあてられる時間が増えています。ただし、これが直ちに新たな発見につながるとは限りません。この研究では、AIが出力した結果の検証に相当な時間が費やされていること、検証待ちの仮説が積み重なっていること、さらに物理的な実験や臨床検証といった分野でボトルネックが生じつつあることも明らかになっています。この点で、科学分野は他の多くの職種と似た状況にあります。AIは生産性を高める大きな可能性を持つ一方で、成果や発見への大規模な影響を実現するには、急速に進化するAIの能力を生かすための科学的プロセスやワークフローの再設計が必要になる可能性があります。
今後の展望
AIと経済の将来をめぐっては、依然として多くの問いが残されています。ATLASは長期的な研究プロジェクトであり、Googleは学術界などのパートナーと協力しながら新たな研究領域を特定し、AIが経済をどのように変化させているかについての理解を深める新たな知見を提供していくとしています。