記事のサマリー(TL;DR)
- メイン州バンガー公共図書館の司書Hannah Cyrusが開発した「Avoiding AI」ワークショップが世界中の司書に波及、初回は70人が参加
- フィラデルフィアのCharlie Baileyが開催した同名ワークショップのInstagram投稿は2,000いいね・220シェアを記録、通常の数十いいねを大きく上回る
- 参加者の目的はAI全否定ではなく「Apple Intelligence・Geminiなどを自分で選択してオフにする」自律性の回復
国内デジタルデバイス・SaaSユーザーが注目すべき「強制AI導入」問題
このワークショップが注目される背景には、GoogleやApple、Microsoftが主要OS・デバイスへAI機能を段階的にデフォルト有効化している現状があります。日本でも2024年〜2025年にかけてiOSのApple Intelligence対応(日本語版)やGoogle WorkspaceへのGemini統合、Windows 11へのCopilot組み込みが相次ぎました。企業の情報システム部門では「社員が気づかないうちにAIが起動している」「入力データの扱いが不透明」という懸念が出始めており、米国の図書館で起きている議論は対岸の火事ではありません。
特にkintoneやSalesforceなど業務SaaSにもAI補助機能が標準搭載されつつある中、どの機能をオンにするか・ポリシーで制限するかを組織として決める必要性が高まっています。「使わないという選択肢を意識的に取れること」自体がデジタルリテラシーの一形態だというワークショップの問題提起は、国内の情シス担当者・経営層にも参考になります。
詳細
「AI回避」ワークショップとは何か
サウスフィラデルフィアの司書Charlie Baileyは、ある日のワークショップをこんな一言で始めました。「みんなスマホを出して!」——ただし、その目的はApple IntelligenceとGeminiをオフにするためです。
会場は子ども向けに装飾された図書館の教室。「M is for moon(月)」「Z is for zebra(シマウマ)」と書かれたカラフルなラグの上に立つBaileyの前には、20人超の大人たちが座っていました。1時間のワークショップの流れはシンプルです。
- AIチャットボットや消費者向けAIツールの基本的な仕組みを解説
- 使いたい人・使いたくない人それぞれの理由を俯瞰
- 主要なデバイスとプラットフォームごとに、特定機能をオフにする手順をプロジェクターで実演
「AIツールが半ば強制的に導入されていくことへの人々のフラストレーションに触発されました」とBaileyはTechCrunchに語っています。「頼んでもいないのにAIがいつの間にか生活のあちこちに入り込んでいる、という感覚です」
「デジタルリテラシーの向上とAIツールを使うかどうかの自律性を取り戻す支援として、このワークショップを位置づけています。特にAIを使わないことが難しくなっている今、デザインが強制的な導入を促している今こそ、その意義があると思っています」
ワークショップを生んだ「ウイルス的な」口コミ
「Avoiding AI」ワークショップのアイデアの出発点は、メイン州バンガー公共図書館(Bangor Public Library)の司書Hannah Cyrusです。彼女が自身のワークショップ開発について論文を発表したところ、世界中の何十人もの司書から「同じことをやりたい」という連絡が相次ぎました。
「こんなことは今まで一度もなかった」とCyrusはTechCrunchに話しました。「『イントロ to コンピューター』のスライドを共有してほしいなんて、誰もメールしてきたことはありませんでした」
バンガー公共図書館では、地域住民がテクノロジーに関する疑問を持つと、まずCyrusに相談します。「『このAIの機能はどうやって消せばいい?』『なんで1文のメールを要約しようとするの?自分で読めるのに』という質問が増えていきました」
Cyrusが通常担当する「イントロ to コンピューター」のようなクラスは参加者が約12人ほど。しかし初回の「Avoiding AI」ワークショップは関心が高すぎて登録を30人で打ち切り、Zoomでのライブ配信を別途用意しなければなりませんでした。ライブ配信を含めると、最初の2回の各ワークショップにはそれぞれ約70人が参加しました。
Baileyがフィラデルフィアでワークショップを開催した際の反響も同様に異例のものでした。図書館のInstagramに投稿したイベント告知は2,000いいね・220シェアを集め、通常の数十いいねとは別次元の数字でした。最初の回が定員オーバーになったため、第2回を急きょ追加で設定しました。
「情報の専門家として、AIに懐疑的な人がこれだけいることを目の当たりにして、充実感を感じました」とBaileyは言います。「この感覚を共有している人がこんなに多いのだと実感しました」
ワークショップ会場での「連帯感」
ワークショップ会場には、見知らぬ同士の間に奇妙な仲間意識が生まれていました。Baileyが参加者に自分のコツを共有するよう促すと、一人がGoogle検索のURLに「&udm=14」を末尾に追加するとAI生成の結果を非表示にできると説明しました。Baileyはそのパラメーター文字列をホワイトボードに書き留めました——図書館のティーン用Wi-Fiのログイン情報の隣に。
「今の世の中、家を買うのでさえ大変なのに、2年後には自分の家の隣にデータセンターができているかもしれない」参加者のJohnnyはそう話しました。
「職場でもAIを押しつけられ続けていて、AIを見るたびに環境のことを考えてしまう」参加者のGabrielleはそう打ち明けました。ただ彼女は、AI技術をまるごと否定しているわけでもありません。「医療分野のブレークスルーにつながるAIは否定しません」
「拒否」ではなく「選択の自由」を求める動き
参加者の多くはAI技術そのものを全否定しているわけではありません。Cyrus自身、図書館での古い文書のスキャンに光学文字認識(OCR)技術が非常に役立っていると認めています。
「Avoiding AI」を求める動きの本質はテクノロジーへの拒絶ではなく、使い方に関するコントロール・主体性・自由の回復にあります。
「デバイスへのAIの強制導入が、ある意味でラクダの背骨を折る最後の一撃になっているかもしれません」とCyrusは言います。「これらの製品を作る企業が私たちに対して大きすぎる影響力を持っているという意識は、長い時間をかけて高まってきました。そして私たちは本当に自分たちが望む方法でこれらの製品を使えていない、という感覚です」