記事のサマリー(TL;DR)
- MetaのApplied AI部門(約6,500人)が発足わずか3ヶ月で深刻な士気崩壊——社内ライブ配信が乗っ取られる事件も発生
- エンジニアたちはAIモデル訓練用のパズル・コーディング問題生成を「選択の余地なく」割り当てられ、「グラーグ」「魂を潰す仕事」と表現
- Scale AIを143億ドルで売却したAlexandr Wangが主導、ザッカーバーグは外部委託より社内人材の方が「知性が大幅に高い」と説明
日本のAI開発組織・データ戦略担当者が押さえるべき構造的問題
Metaが直面している問題の本質は、AIモデルの能力向上に欠かせない「高品質な訓練データの調達」を、いかに持続的かつ倫理的に行うかという課題です。Metaは4月の社内発表で、コーディングなど技術タスクでAIが人間を超えるにはまだ「実際の作業例」が必要だと認めており、だからこそ外部委託ではなく社員を充てるという判断をしました。しかし強制的な配置転換は組織の信頼を著しく損ないます。
日本においても、LLM(大規模言語モデル)のファインチューニングや評価データ作成を社内リソースで賄おうとする企業は増えています。ドメイン知識を持つ社員に「AIのための作業」を割り当てる際、業務設計と合意形成を欠いたまま進めると、Metaと同様の反発が生じるリスクがあります。また、社員のクリックやキーストロークをAI訓練データとして収集するプログラムに1,600人超が署名した抗議活動は、データ収集の同意プロセスと透明性が組織内でいかに重要かを示しています。GDPR・個人情報保護法の観点からも、社員データを訓練に用いる場合の同意設計は日本企業でも今後の論点になり得ます。
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社内ライブ配信の「乗っ取り」事件が表面化
Wiredの報道によると、今週開催されたMeta社員向けのライブ配信プレゼンテーションで、何者かが接続を乗っ取り、Meta AIの上級幹部に対する罵倒を観客に叫ぶよう要求する事態が発生しました。プレゼンターの一人は報道によって顔を手で覆ったとされます。この事件は、発足からわずか3ヶ月のApplied AIチーム内に蓄積されていた不満が一気に噴出したものとWiredは分析しています。
「徴兵(ドラフティー)」と自称するエンジニアたち
Applied AIチームには約6,500人のエンジニアとプロダクトマネージャーが所属しており、その多くが「参加か退職か」という選択を迫られたと証言しています。自らを「draftees(徴用兵)」と呼ぶ社員も多く、Business Insiderが先月報じたところでは、配属を知らされたのは「突然のメール」だったといいます。Reddit上ではある社員が「かなりランダムなプロセスだった」と振り返っています。
彼らに与えられた業務は、AIモデルを訓練するためのパズルやコーディング問題の生成です。「まさにグラーグ(強制労働収容所)だ」とある社員はWiredに語り、別の社員は「ほとんどの人が魂を潰されるような仕事だと感じている」と述べました。
ザッカーバーグが「外部より社員」を選んだ理由
4月に流出した社内会議の音声録音によると、マーク・ザッカーバーグCEOはMetaの社員を外部委託業者の代わりに起用する理由を自ら説明しました。その論拠は、Scale AIを143億ドル(約2兆円)でMetaに売却してチーフAIオフィサーに就任し、Meta Superintelligence Labsを率いるAlexandr Wangがデータラベリング業界を熟知していること、そしてMetaの平均的な社員は外部委託業者と比べて「知性が大幅に高い(significantly higher)」というものでした。
Applied AIチームはMeta 12年のベテランでかつてReality Labs部門の副社長を務めたMaher Sabaが率いており、CTO(最高技術責任者)のAndrew Bosworthに直属します。Reality Labs部門は、MetaがAIにシフトする以前にメタバースへ830億ドルを投じた部門です。また当初の組織設計では、1人のマネージャーに最大50人が報告するという異例のスパン・オブ・コントロールが採用されていました。
監視プログラムへの抗議と経営層の対応
さらに、社員のクリックやキーストロークをAI訓練データとして収集するプログラムに対し、Meta全社で1,600人超の社員が抗議の署名を行っています。チーフプロダクトオフィサーのChris Coxは今週、社員との通話で職場環境が「brutal(過酷)」だと認める発言をしました。
ザッカーバーグは金曜日(現地時間)の社内メモで、一連の変更が「distress(苦痛)を引き起こした」と認め、対処する計画であるとしました。同メモでは「Metaの北極星は、世界で最も才能ある人々がインパクトを生み出すための最良の場所であること」とも記しています。