記事のサマリー(TL;DR)
- 2026年7月時点のパスキー登録数は約340万個。前回(vol.9)比で+105万個、vol.3比では10倍超に成長
- SMBCアプリ連携コンテキストに絞ると、ログインにパスワードを使う割合はわずか10%程度まで低下
- NIST SP 800-63-4 準拠でパスワード最低長を8文字から15文字へ拡大。アカウント登録CVRは微増で、大きな反発なし
認証基盤を見直す国内SaaS・業務システム担当者が注目すべき実装知見
マネーフォワード IDが公開するパスキー利用状況レポートは、国内の大規模サービスにおけるパスワードレス移行の現実的な指標として参照価値が高い資料です。本レポートが示す「スマホ限定の新規サービスであればパスワード非対応でも大半のユーザーに対応できる」という知見は、新規でモバイルアプリを立ち上げる事業者だけでなく、kintone や Salesforce などの業務 SaaS に独自の認証 UI を被せる構成を検討している企業にも直接参考になります。また、パスワードリセット導線でのパスキー同時登録という設計パターンは、既存ユーザーベースを抱えたまま段階的にパスワードレス化を進めるうえで即座に応用できる手法です。NIST SP 800-63-4 によるパスワード最低長15文字要件は、今後国内のセキュリティガイドラインにも影響する可能性があり、freee・SmartHR・マネーフォワードを利用している企業の情シス担当者は自社システムの認証ポリシー見直しの契機として注目しておく価値があります。
詳細
パスキー登録数の推移
2026年7月現在、マネーフォワード ID に登録されているパスキーの総数は約 340万個 に達しました。過去のレポートとの比較は以下の通りです。
| バージョン | パスキー登録数 | 前回比 |
|---|---|---|
| Vol.3 | 32万個 | — |
| Vol.4 | 75万個 | +43万個 |
| Vol.5 | 115万個 | +40万個 |
| Vol.6 | 118.5万個 | +3.5万個 |
| Vol.7 | 145万個 | +26.5万個 |
| Vol.8 | 180万個 | +35万個 |
| Vol.9 | 235万個 | +55万個 |
| Vol.10(2026年7月) | 340万個 | +105万個 |
前回から半年足らずで+105万個という加速の背景には、主に2つの要因があります。
- アカウント登録時のパスキー登録フローの整備(Sign-up w/ Passkey)
- 2026年4月開始の SMBC × マネーフォワード ME 連携——SMBC 社の各アプリに家計簿機能が搭載され、スマートフォンユーザーを中心に新規登録者が増加
OS別の登録割合と認証利用率
OS別のパスキー登録比率は以下の通りで、vol.9 からの大きな変化はありません。
| OS | 登録比率(vol.9 → vol.10) |
|---|---|
| iOS | 68% → 66% |
| Android | 17% → 17% |
| macOS | 7% → 9% |
| Windows | 7% → 7% |
登録済みパスキーのうち実際に認証に使われた割合(利用率)も概ね横ばいです。
| OS | 認証利用率(vol.9 → vol.10) |
|---|---|
| iOS | 58% → 60% |
| Android | 61% → 60% |
| macOS | 63% → 65% |
| Windows | 44% → 47% |
ログイン手段に占めるパスキーの割合
OS別に、全ログインのうちパスキーが使われる割合を見ると、今回のレポートで顕著な伸びが確認できます。
| OS | パスキー利用割合(vol.9 → vol.10) |
|---|---|
| iOS | 45% → 54% |
| Android | 26% → 35% |
| macOS | 28% → 35% |
| Windows | 2.6% → 4.8% |
iOS・Android・macOS ではパスキーのみでのアカウント登録が普及しているため、そのユーザー群はパスワードを別途登録しない限りパスワードを使うことがなく、結果として利用率が継続的に上昇しています。Windows はパスキー登録 CVR(Conversion Rate)が低いため対象外のままですが、Windows 10 のOSサポート終了(2025年10月)によって新しい環境へ移行するユーザーが増え、緩やかに利用率が上向いています。
半年間での主な実装変更
Sign-up w/ Passkey(パスキーでのアカウント登録)
昨年後半にリリースした「パスキーのみでアカウント登録」フローは引き続き好調で、全体では 約30%のユーザー がパスキー登録を選択しています。SMBC アプリ連携によるスマホユーザーが主流の マネーフォワード ME では、パスワードを登録するユーザーが 7%以下 まで低下しました。
Passkey Reset / Passkey Setup(パスワードリセット・初期設定導線でのパスキー対応)
この半年で、パスワードリセット導線においてパスキーへのリセット(= パスキー追加登録 + パスワード無効化)が可能になりました。また B2B ユーザーがテナント管理者からの招待を受けてパスワードを初期設定する場面でも、パスワードの代わりにパスキーを設定できるようになっています。
現在、Sign-up w/ Passkey・Passkey Reset・Passkey Setup の3導線合計でパスキー登録全体の50%超 を占めるに至りました。日々パスワードでログインするユーザーのうち数%がパスワードリセット導線に到達しており、そこでパスキーへの切り替えを促すことが、既存ユーザーのパスワード利用率を下げる効果的な手段になると開発チームは見ています。
パスワード最低長の15文字化(NIST SP 800-63-4 準拠)
NIST SP 800-63-4 では、単一要素としてのパスワードの最低長が従来の8文字以上から 15文字以上 へ引き上げられました。全ユーザーへの一括適用はUX上の摩擦が大きいため、現在は以下のシナリオに限定して15文字要件を適用しています。
- iOS・Android・macOS でのアカウント登録
- 全OSでのパスワードリセット
- 全OSでのパスワード変更
シナリオ1については、パスキー登録 CVR とパスワード登録 CVR を合算で計測した結果、最低長拡大と同時にパスキー登録を選択肢として提示したことで 全体のアカウント登録 CVR がわずかに向上 し、大きな反発も生じていません。シナリオ2・3はサポート窓口への問い合わせ状況のみを指標としており、現時点で特段の問題は報告されていません。
ME × SMBC アプリ(2026年4月〜)
2026年4月から SMBC 社の各種アプリに マネーフォワード ME と連携した家計簿機能が搭載され、そこからのマネーフォワード ID 新規登録が全体に占める割合が無視できない水準に達しています。この連携経由のユーザーはすべてスマートフォンユーザーであり、サービス開始当初からパスキーでの登録が促される環境に置かれています。
この SMBC アプリコンテキストに絞ったログイン手段の割合では、パスワードおよびメール OTP の合計利用率が約10% にとどまっており、残り90%はパスキーで認証されています。全体(既存ユーザーを含む)での同数値と比べると、その差は顕著です。
この結果について開発チームは次のように総括しています。
「スマホユーザーしか相手にせずこれから新規にサービスを開始するという条件下では、もはやパスワードをサポートしなくても大半のユーザーには対応できると言えるのではないでしょうか」
まとめと今後の展望
アカウント登録・パスワードリセット・B2B ユーザーの初期設定という アカウントライフサイクル全体 にわたってパスキーを選択できる仕組みが整いました。Windows 以外の OS では、能動的な施策を打たなくてもパスキー利用率が上がり続ける状態に近づいています。
2026年の WWDC や Google I/O ではパスキー利用率向上に直結する新機能の発表は特になかったとのことで、当面はプラットフォーム新機能の採用よりも、各登録導線でのプロモーション CVR 向上が開発の主戦場になる見込みです。