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2026.08.22

Starcloud が軌道上データセンターに2億5,000万ドル追加調達——ロケット打ち上げ枠の逼迫が加速

記事のサマリー(TL;DR)

  • Starcloud が2億5,000万ドルの追加調達を完了し、評価額は約23億ドルへ
  • Nvidia が2,500万ドルを出資。軌道上で H100 GPU を動かす唯一の企業として共同開発を推進
  • SpaceX の Falcon 9 が2028年に退役予定で、打ち上げ枠の確保が軌道データセンター業界全体の最大課題に

軌道上 AI インフラと日本の宇宙・クラウド事業者が注目すべき市場構造の変化

Starcloud の今回の調達は、単なるスタートアップのラウンドではなく「軌道上推論(Orbital Inference)」という新しいコンピュートレイヤーが事業として成立しつつある証左です。米国防省関連機関を含む顧客向けに、2027年から 8 kW 計算衛星(Starcloud-2)でのサービス提供が計画されており、地上データセンターと競合するインフラとして本格的に位置づけられています。

日本においても、JAXAや三菱電機が衛星コンピューティングの研究を進めており、また国内クラウド事業者・システムインテグレーターが「衛星エッジ」の活用を検討し始める段階に差し掛かっています。Nvidia が宇宙専用チップ「Vera Rubin Space-1」の開発に着手したことは、地上向け GPU エコシステムとは別軸の調達・運用戦略を要求するものであり、GPU 選定・インフラ設計の前提が変わる可能性を示しています。また、Falcon 9 の2028年退役に伴うロケット輸送市場の逼迫は、衛星通信や衛星リモートセンシングを利用する日本企業の調達計画にも波及しうる構造変化です。

詳細

2億5,000万ドルの追加調達と23億ドル評価額

Starcloud は2026年3月に実施した1億7,000万ドルのシリーズ A に対し、2億5,000万ドルの追加エクステンションを完了したと TechCrunch に明らかにしました。今回のエクステンションにより企業評価額は23億ドルに達します。調達資金は製造拠点の拡張と、SpaceX の Starship ロケットへの搭載を想定した大型軌道データセンター衛星「Starcloud-3」の開発加速に充てられます。

ラウンドをリードしたのは Manhattan West Ventures で、Nvidia・Cisco のほか、Benchmark、EQT、Soma、NFX、776、Cedar Capital、Goanna Capital、Standard Capital が参加しました。関係者によると Nvidia の出資額は2,500万ドルとされています。

打ち上げ枠の逼迫が事業計画を左右する

CEO の Philip Johnston 氏は「ロケット輸送市場で何が起きようとしているか、すでに見えている。膨大な量の打ち上げ枠を確保する必要がある」と語ります。Starcloud は FCC に対して8万8,000機の衛星運用許可を申請済みです。

最大の課題として浮上しているのが打ち上げコストと打ち上げ枠の確保です。SpaceX の主力ロケット Falcon 9 は2028年をもって退役が計画されており、後継の Starship はまだ商業打ち上げの実績を積んでいません。Blue Origin の New Glenn や ULA の Vulcan は定期運航に至っておらず、Rocket Lab の Neutron はいまだ発射台に立っていません。こうした状況下で打ち上げ市場は「非常に逼迫している」と Johnston 氏は表現します。

打ち上げコスト問題は業界全体で深刻化しており、自社でロケット開発に乗り出した軌道データセンタースタートアップも既に存在します。

2027年の実証フライトと Starship 依存の戦略

Starcloud は当面、次世代 8 kW 計算衛星「Starcloud-2」を2027年のライドシェア便で2機打ち上げる計画です。これらは米政府機関を含む顧客向けに軌道上推論タスクを実行します。さらに Falcon 9 の専用打ち上げ購入や他プロバイダーとの契約締結も検討中です。

長期的には Starship がもたらす打ち上げコスト低減を前提に、地上データセンターと競合しうる「軌道推論レイヤー」の構築を目指しています。Johnston 氏は「2029年に SpaceX の打ち上げ枠を全く確保できなければ、我々にとって大きな課題になる」と率直に認めています。

なお SpaceX CEO のイーロン・マスク氏は今週、帰還する Starship を再キャッチする試みを数ヶ月延期し、初の再飛行は今年末から2027年初頭を目指すと発表しています。

Nvidia H100 の軌道上稼働と Vera Rubin Space-1 チップ

Johnston 氏が Nvidia 投資を「重要なシグナル」と位置づける背景には、技術的な先行優位があります。現在、軌道上で Nvidia H100(地上データセンター向け GPU)を実際に稼働させ、かつモデルのトレーニングを実施した企業は Starcloud だけです(他の多くの宇宙用 GPU はエッジ処理向けの設計)。

Starcloud はその運用データを Nvidia と共有しており、Nvidia は宇宙専用に設計した初の GPU「Vera Rubin Space-1」チップの開発を進めています。このチップはまだ製造段階に入っておらず、Starcloud は2028年末ごろの軌道上搭載を目指しています。エンジニアチームが追跡している設計上の重要課題は以下の3点です。

  • チップの動作温度と放熱フィン(ラジエーター)サイズのトレードオフ
  • 放射線シールドの最適配置
  • ロケット打ち上げの振動・衝撃に耐えるための堅牢化処理

製造拠点と体制

Starcloud は現在、ワシントン州ウッディンビルに10万平方フィート(約9,290㎡)の製造施設を構えており、従業員数は25名で増員中です。この立地は SpaceX および Amazon が通信衛星コンステレーションの衛星を製造する拠点の近くにあたります。