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2026.06.10

Spirit of CRE イベントレポート:SmartHR・Autify・UbieほかCREエンジニアが語る「顧客信頼性の哲学」

記事のサマリー(TL;DR)

  • 2025年6月3日、CREコミュニティイベント「Spirit of CRE」が台風6号の影響でオンライン開催に急遽変更されたが、Ubie・Autify・SmartHR・LayerX・ヌーラボなど複数社が登壇
  • Autifyはヘルプ記事作成のリードタイムを75%削減し、Intercom Fin(AIエージェント)により問い合わせの約50%を自動解決する体制を構築
  • UbieのCRE立ち上げ事例では「踊り手と舞台装置」という組織論をもとに、CREが一人でバグを直し続けるモデルから「全員がCREになれる状態を裏から支える」モデルへの転換が示された

国内SaaS事業者のCRE・CS組織が参考にすべき実装パターン

「CRE(Customer Reliability Engineering)」は、サービスの信頼性をエンジニアリングで高めることを担うロールです。日本でも SmartHR・Ubie・Autify・LayerX・ヌーラボといった有力SaaS企業がこの機能を持ち始めており、本イベントはその実践知が初めて横断的に共有された場となりました。

特に注目すべきは、各社のAI活用アプローチが「属人的なサポート品質の属人化をいかに脱するか」という共通課題に収束している点です。Autifyの事例では、Slack上のエンジニア回答にスタンプを押すだけでAIが自動要約・Notionへ格納し、そのデータがIntercom FinなどのAIエージェントの回答精度向上にも直結するフィードバックループを実現しています。kintoneやSalesforceを中心とした業務SaaS上にカスタマーサポート業務が乗っている国内企業においても、同様の「ナレッジの自動ストック → AI応答 → 精度向上」の好循環設計は、人員を増やさずにサポートをスケールさせる現実的な手法として参考になります。

また、UbieのAIコーディングエージェントをCSM・PdMに開放した事例は、「CREが直接修正するのではなく、修正できる環境を整える」という考え方を示しており、開発組織と顧客対応組織の垣根を下げる設計として国内のプロダクト開発現場にも応用余地があります。

詳細

イベント概要:「Spirit of CRE」とは

「Spirit of CRE」は、CRE(Customer Reliability Engineering / Engineer)に関するコミュニティイベントとして新たに立ち上げられたもので、オーティファイ(Autify)とUbieが共同運営する形で開催されました。本来は東日本橋のAutifyオフィスでの現地開催が予定されていましたが、台風6号が首都圏に最接近したタイミングと重なったため、急遽オンライン形式へ変更。それでも参加者の半数以上が「CREです!」とチャットで自己申告するほど、CRE実践者の注目度が高いイベントとなりました。

司会はUbieの末村さんが担当。冒頭では「各社に明確なCREというロールはなくても、その魂(Spirit)を持っているメンバーはたくさんいる」というメッセージが共有され、開始早々に会場のボルテージが上がりました。


メインセッション①:「誰もがみんなCRE ─ CREは心のあり方だよね」(Ubie / ume さん)

Ubieのumeさんは、2024年9月にCREを立ち上げた当初の成果と、その後に直面した壁を率直に語りました。

立ち上げ初期はリリース頻度の向上や顧客への安心感醸成といった成果を上げたものの、「改善を積み重ねるチーム」として認識されるにつれ、ROI(投資対効果)の証明を求められるようになります。「この改善で売上はどれくらい上がるの?」「チャーンレートはどう変わるの?」という問いに対してうまく答えられず、umeさん自身が内向きになってしまったという経験も正直に語られました。これはいわゆる「1人目CRE」が陥りがちな孤立状態です。

転換点となったのは、Ubie社内のデザイナーが提唱した「踊り手と舞台装置」という組織論でした。

  • 踊り手:顧客にディープダイブして価値を検証・提供する動き(CSM・PdMなど)
  • 舞台装置:踊り手のアウトカムを最大化するツールや仕組みを作る動き

umeさんは自身が構築していたAIコーディングエージェントの仕組みを社内のバグバッシュ(bug bash)で全員に開放しました。すると、コードを書かないロールであるCSM(カスタマーサクセスマネージャー)やPdM(プロダクトマネージャー)が自らプルリクエストを出し始めたといいます。「舞台装置」を提供することで「踊り手」が自律的に動き始めた、という実体験です。

この体験から導き出されたumeさんの結論は、「CREが一人でバグを直し続けるのではなく、顧客のファクトやメトリクスを伝えてみんなの『直したい熱』を高め、動き出した踊り手にAIツールなどの舞台装置を渡すことで橋渡しをすること」。タイトルの「誰もがみんなCRE」は、「誰もがみんなCREになれる状態を裏側から支えるのが、これからのCREのあり方だ」というメッセージとして着地しました。


メインセッション②:「Spirit of CRE @ Autify ─ Autify Nexus のサポート体制構築」(Autify / Mami さん)

Autifyのマミさんは、新規プロダクト「Autify Nexus」のリリースを機に構築したサポート体制を紹介しました。

Autifyでは「Autify Support Way」と名付けた行動指針を策定しました。その内容は以下の3点です。

  1. 表面的な回答ではなく、顧客の真の課題解決を追求する
  2. 仕組みやナレッジを整備し、自動解決や顧客の自律的な利用を実現する
  3. 人手でなくていい作業はAI活用や自動化を実施し、無理のない運用体制を作る

「単に問い合わせを捌くのではなく、仕組みでトイル(定型業務)を削減し、サービスの信頼性をスケールさせる」という思想に基づいています。

新プロダクトのリリースに伴い問い合わせの急増が予想される一方、スタートアップとして人員をすぐに増やせないという制約のなかで、チームは以下の施策を実行しました。

ナレッジ蓄積の完全非同期・自動化

Slack上でエンジニアが回答した投稿に特定のスタンプを押す、または問い合わせにタグを付けるだけで、AIが内容を自動要約してNotionの共通データベースへストックする仕組みを構築しました。

ヘルプ記事作成の「半自動化」でリードタイム75%削減

Notionから社内Botを呼び出すだけで、「ドラフト作成 → ガイドラインに基づく自動レビュー → 日本語・英語・韓国語の3ヶ国語翻訳」を一気通貫で実行できる体制を整備しました。

Intercom Fin(AIエージェント)の早期導入

問い合わせへの自動応答を早期に開始。情報鮮度の高いヘルプセンターのデータがAIエージェントの回答精度向上にも直結するという好循環を生み出しています。

これら一連のシステム化の結果、問い合わせの約50%をAIエージェントが解決するという成果を達成しました。


LTセッション:4社によるライトニングトーク

メインセッションに続き、4本のLT(ライトニングトーク)が行われました。

  • 「私をかたちづくる “Spirit of CRE”」 / SmartHR 井上大輔(a-know)さん:カスタマーセントリックに考え行動するようになった原体験と、CREだからこそ技術にこだわりたいという信念を語りました。
  • 「CRE Spirit を広げる、その左記へ」 / MIXI masartzさん:「CREカンファレンスを開催したい」という発言が参加者全員の共感を呼び、会場(オンライン)のボルテージが最高潮に達しました。
  • 「お客様の業務完了を阻むものを、あの手この手で取り除く」 / LayerX tanisuke さん:CRE組織の存在意義を「お客様が仕事を終わらせるまでの障害を取り除くこと・それによって顧客信頼性向上に繋げること」と明文化。「お客様はそもそも何がしたいのか。それは業務を完了することだ」というシンプルかつ本質的な視点が登壇者・参加者双方に響きました。
  • 「CRE & AI」 / ヌーラボ t_hide さん:AIがCRE業務にどう組み込まれるかについて事例を交えて紹介しました。

パネルディスカッション:「みんなで話そう CRE Spirit」

最後のコンテンツは、当初予定していた現地でのパネルディスカッションに代わり、登壇者・参加者入り乱れる形のオンラインディスカッションとして実施されました。テーマは主に以下の4点でした。

  1. お客様の声に一番向き合っているのは誰か?
  2. 「最も重要なフィードバックチャンネル」は何か?
  3. プロダクト改善の優先順位付けをどうするか?
  4. 生成AIは「CREの魂」をどう変えるか?

SmartHRの井上さんは①に対して「SmartHRでは全員が向き合っている」としつつも、ロールごとの向き合い方の違いや顧客の声へのアクセスしやすさの差が難しさを生むと補足しました。④については「これまで理想論だと思われていた課題が、生成AIによって実現可能なものに変わってきた。CREとして、顧客の成功のために必要な理想を限りなく高く持ち、それを技術でハンドリングしようとすることが大事」という考えを共有しました。

また、「声なき声」(問い合わせに至らない顧客の不便)をいかに観測するかという問いも提起され、これも生成AI活用によって従来は困難だったアプローチが現実的になってきているという認識が共有されました。