記事のサマリー(TL;DR)
- SmartHR が JSAI2026(群馬・高崎、約5,000人参加)にシルバースポンサーとして協賛
- LLM プロンプト最適化手法「Adversarial GEPA」を口頭発表。ラベル付きデータ4〜8件で既存手法を上回る改善を実現
- 学会トレンドは「生成AI」が19位→7位に急上昇、「ロボット・フィジカルAI」も13位→6位に浮上
kintone・Salesforce・SmartHR など業務 SaaS に LLM を組み込む開発者が注目すべき点
SmartHR の発表が取り上げた「ローンチ前のプロンプト検証」という課題は、SmartHR に限らず、業務 SaaS に LLM 機能を追加しようとする開発現場全般に刺さるテーマです。社内の稟議書類や HR データを扱う RAG アシスタントは本番公開前にラベル付き正解データを大量に用意しにくく、少数ショットでの評価・改善ループを回せる手法へのニーズは高い状況です。
また学会全体のトレンドとして「生成AI」が研究対象から「社会に埋め込まれた前提」へ移行しつつあるという観察は、SaaS ベンダーの製品ロードマップにも直結します。フィジカルAI(ロボット・身体性を持つAI)への関心の高まりは、倉庫・製造ラインと連携する EC・在庫管理システムを扱う事業者にも中期的な影響を与えうる動向です。
詳細
人工知能学会全国大会(JSAI)とは
人工知能学会全国大会(JSAI)は、AI 技術に関する国内最大規模の学術大会です。機械学習の基礎・応用研究から産業応用まで幅広い発表が集まり、AI の最新動向を把握できる場として毎年多数の参加者を集めています。2026年の第40回大会は40周年の節目にあたり、群馬・高崎の Gメッセ群馬で6月8〜12日に開催され、約5,000人が参加しました。
今年の研究トレンドの変化(JSAI2025 → JSAI2026)
全発表タイトルをキーワードで分析し、前年(JSAI2025)との比較を行った結果、以下の傾向が確認されました。
上位3テーマは不動
「LLM・基盤モデル」「AIエージェント」「対話・会話AI」の上位3テーマは昨年から順位変動なく、引き続き学会全体の中心軸となっています。
最大の急上昇:「生成AI」(19位 → 7位、12ランク上昇)
発表内容は多岐にわたり、生成AI 技術そのものを扱う研究に加えて、GPT-4o などの生成AIをめぐる人間・社会の動きへの考察、シミュレーション研究での要素技術活用、プロダクト活用の実践知共有など、テーマが分散しています。生成AIが「研究する技術」から「社会に埋め込まれた前提」へと変わりつつある、という変化が発表構成からも読み取れます。
フィジカルAIへの関心が学術領域に波及:「ロボット・フィジカルAI」(13位 → 6位、7ランク上昇)
身体性を持つ AI・ロボット技術への関心が学術研究の分野にも着実に広がっています。
SmartHR からの研究発表
敵対生成プロンプト同時探索による内省型プロンプト最適化
- 発表者: 井上 耕太朗(ML エンジニア)
- セッション: 4M5-GS-2f-05(6月11日 16:30〜16:45)
SmartHR は RAG(Retrieval-Augmented Generation)を活用した AI アシスタントなど、複数の LLM アプリケーションを提供しています。これらをローンチ前から高品質な状態に保つためにはプロンプトの事前検証・改善が不可欠ですが、従来のプロンプト最適化手法の多くは大量のラベル付きデータを前提としており、サービス公開前の段階では利用しにくいという問題がありました。
今回提案された手法「Adversarial GEPA」は、目的タスクを正しく解くプロンプトと、そのタスクを意図的に欺く敵対的な生成プロンプト(adversarial prompt)を同時に育てるアプローチです。両者を競合させることで、少数データ環境でもプロンプトの脆弱性を炙り出しながら改善を進められます。
主な成果:
- ラベル付きサンプルがわずか 4〜8件 という少数データ設定においても、既存手法(GEPA)を上回るプロンプト改善を実現
- 発表スライドは Speaker Deck にて公開中
この研究は、データアノテーションコストが高い業務 SaaS 領域のプロンプトエンジニアリングに対して、現実的な解法を示すものとして注目されます。