記事のサマリー(TL;DR)
- SmartHRは2026年4月、社内のAI普及・新たな知見の探索・開発・共有に取り組む有志組織「AIやっていき室」を発足しました。
- 活動は「セキュリティ・ガードレールチーム」「AIエージェントチーム」「プロセスの変革チーム」「盛り上げチーム」の4チームに分かれ、技術統括本部の有志15人が参加しています。
- 盛り上げチームは2026年6月、AIをうまく使っているメンバーが実際の操作画面を見せ合う「AIの使い方自慢会」をオフライン・オンラインのハイブリッド形式で1時間開催しました。
詳細
AIやっていき室の発足の経緯
筆者はSmartHRでQAエンジニアを務め、普段はフロントシステムエリアの品質保証を担当しています。本記事は、社内でのAI活用を広げるために発足した「AIやっていき室」の経緯と、最初の一歩として開催した「AIの使い方自慢会」を紹介するものです。
AIやっていき室の目的は「AIの活用を”みんなの当たり前”へ」です。AIの進化によりプロダクトづくりのあり方が根本から変わっている中で、2026年4月に発足しました。社内のAI普及・新たな知見の探索・開発・共有に取り組んでいます。
始まりは1つのSlackメッセージでした。2026年4月、有志のひとりが技術統括本部(SmartHRの各プロダクト開発本部と、DevRelやアジャイルコーチングなどエンジニアリングを支える機能を束ねる組織)のSlackチャンネルに「AIやっていき室(仮)」と名乗って投稿し、活動を記録するためのSlackチャンネルとIssueの置き場を作ったことが最初の一歩でした。
この背景には次のようなAIに関する課題がありました。
- 特定のチームだけが早く進んでも技術統括本部全体としては不十分であること
- 勉強会にはもともと感度の高い人が中心に集まりがちで、会社全体の底上げに広げにくいこと
こうした声も踏まえて有志が集まり、キックオフミーティングを開いて、ミッション・ビジョン・モットー・直近で取り組みたいテーマを話し合いました。前述の目的の言葉や、現在の4つの活動チームのテーマは、この議論がもとになっています。
AIやっていき室の活動の全体像
AIやっていき室では、以下の流れで活動領域を広げています。
- それぞれの観点でやっていきたいこと、課題に感じていることをブレストで出し合い、テーマごとにチームを作る
- チームごとにテーマに沿った取り組みを進める
- 週1の定例で各チームの共有を行い、全体での学びを深める
現時点では、技術統括本部の有志を中心に15人がAIやっていき室に参加しており、チームは大きく以下の4つに分かれています。
- セキュリティ・ガードレールチーム:AIツールを安心して使いこなすためのルール整備・知見の共有
- AIエージェントチーム:AIエージェント・社内AIプロダクトをつくる
- プロセスの変革チーム:職能横断で高速・高品質の新たな開発プロセスを生み出す
- 盛り上げチーム:イベントや勉強会を通じて裾野を広げる
筆者はセキュリティ・ガードレールチームと盛り上げチームに所属しており、本記事では盛り上げチームで実施したイベントを紹介しています。
盛り上げチームが実施したイベントは「AIの使い方自慢会」「オンラインハンズオン」「マッシブモブ会」の3つです。文量の都合で今回は「AIの使い方自慢会」を紹介し、「マッシブモブ会」以降は次回のブログで紹介するとしています。
盛り上げチームはまず、AI活用の現状を把握するため技術統括本部のメンバーにアンケートを実施しました。その結果、AI活用が進まないハードルとして「準備・コンテキスト整備の負荷」が最多、「共通のSkillやAgentなどの資産が欲しい」が次点でした。
これらの課題を踏まえ、教科書的に単語や機能を説明するのではなく、うまく使えている人の設定や実務での進め方をそのまま見てワイワイする機会をつくることで、この負荷を下げられると考えたとしています。
AIの使い方自慢会の概要
AIの使い方自慢会は、「俺のAIを聞け」をコンセプトに、AIをうまく使っているメンバーに実際の操作画面を見せてもらうイベントです。2026年6月に、オフラインとオンラインのハイブリッドで1時間開催されました。
この会は、ベストプラクティスを発表する場ではなく、AIの使い方を持ち寄る場として設計されました。実際の作業を参加者含めワイワイしながら、MC(進行役)がツッコミを入れたりSlackに流れる質問を拾ったりする対話形式で進められました。
プレゼンテーションスタイルではなく、実務をそのまま共有しながら進めたことで、整理された資料では削られてしまう泥臭い部分まで共有できたとしています。実際のデザインドックやよく使うコマンド群を画面共有で見せてもらうと、たとえば「AIが生成したままのドキュメントは読みにくい」といった課題まで一緒に見えてきたとのことです。
以下は、社内の情報に関わらない部分から1つだけ抜粋して紹介されている事例です。
AIの使い方自慢会で共有されたこと:ハーネスエンジニアリング
ハーネスエンジニアリングとは、AIコーディングエージェントがミスなく自律的に働けるように、プロンプトで「お願い」するのではなく仕組みで開発環境を整備する考え方です。
共有された事例では、特定のコマンドの書き方が毎回パーミッションの確認に引っかかるため、AIへの指示を書くCLAUDE.mdというファイルで禁止したものの改善されませんでした。最終的には、AIの操作を検知するhooksという仕組みで実行コマンド(bash)の内容を解析し、該当パターンを含む場合は失敗させてAIに指示し直させる形にしたとのことです。
プロンプトはあくまでもお願いであり、AIが従わない場合はハーネスとして機械的に縛ることも必要だという話でした。
発表のハードルと参加のハードルを下げる工夫
「勉強会にはもともと感度の高い人が中心に集まりがちで会社全体の底上げに広げにくい」という課題を踏まえ、登壇と参加の両方のハードルを下げるいくつかの工夫が入れられました。
- 登壇者は入念な準備をしなくても発表できるようにした
- オンライン・オフラインのハイブリッド開催とした
- MCを1人置き、進行と質問の拾い上げを担当する
- 発表者は手元の操作と説明に集中できる
- 質問やツッコミはSlackで随時受け付け、MCが読み上げる
- 実際に参加者の「AIのドキュメントが読みにくい」という書き込みが、そのまま課題の共有につながった
- 進行に時間の余裕を持たせ、脱線や質問で長くなっても回収できるようにする
- 脱線が有益な議論や参加者の気づきにつながることもあるため、時間を区切りすぎないようにしていた
MCを置いたことは特に効果があったとしています。発表者ひとりに進行と説明の負荷が集中しないため、準備に時間をかけられない人にも登壇を打診しやすくなるとのことです。発表者も会の最後に「あまり準備できず緩い感じで進めてしまったが、参加者の疑問や『自分たちはこうやっている』という話をいろいろ聞けて楽しかった」と話していました。
自慢会の成果と次のイベントへの広がり
会の狙いだった「うまく使えている人の設定や実務での進め方をそのまま見て、ワイワイする機会をつくれば、AIを応用するハードルを下げられる」を達成でき、この会が次のイベントのきっかけにもなったとしています。
具体的には、「あの開発スタイルを自分のチームでもやってみたいが、どこから始めればいいか分からない」という声が具体化し、自チーム流に応用するハードルが1つ減ったという感想が多く出ていたとのことです。
その結果、自慢会で紹介された設定を各自の手元に適用する事前ハンズオンと、全員で手を動かして粗いPRD(製品要求仕様書)からPoC(概念実証)を作る「マッシブモブ会」という後続の企画が動き出しました。マッシブモブ会はすでに開催済みで、次回の記事で紹介するとしています。
社内でAI活用を広げたい人へ
筆者らの経験から、社内でAI活用を広げる最初の一歩として有効だったこととして、以下がまとめられています。
- 有志が集まる場を作り、テーマごとに小さくチームを分ける
- アンケートなどで「何がAI活用を妨げているか」を可視化し、打ち手をそこに合わせる
- ベストプラクティスの発表会ではなく、うまく使えている人の実物(画面・設定・ドキュメント)をそのまま見せる場から始める
- MCを置くなど、発表側・参加側双方のハードルを下げる仕掛けを入れる