記事のサマリー(TL;DR)
- 2026年5月22日、SmartHR が東京・六本木で RubyKaigi 2026 事後勉強会「したっけ、東京で!」を開催
- Spinel を使った Ruby 拡張でピュア Ruby 比35倍高速化、net-http の HTTP/2 対応、AI 時代の静的型推論(TypeProf)など技術色の濃い LT が相次いだ
- RubyKaigi 2027 は宮崎開催が確定。チーフオーガナイザー・松田明さんが函館アリーナの会場費1日45万円などの裏話を披露
Ruby コミュニティと開発現場が交わる「Kaigi Effect」が示すもの
今回のイベントを通じて繰り返し語られた「Kaigi Effect」は、RubyKaigi に参加したことで新たな技術挑戦や OSS 貢献が生まれる連鎖反応を指す。具体例として、初参加のエンジニアが JavaScript を一切使わず Ruby と CSS だけでリアルタイム投票アプリを実装した事例や、mruby と自作コントローラーを用いたゲーム「IKATSURUBY」を970人が体験した事例が挙げられた。AI がコードを書く時代に「自ら手を動かして理解する」姿勢とコミュニティへの還元が繰り返し強調された点は、Ruby をプロダクト開発の基盤(Rails など)に採用している国内 SaaS・EC 事業者にとっても無関係ではない。成瀬さんの LT では「AI 時代だからこそ Rails のようなエコシステムとコミュニティが重要」との主張がなされており、言語・フレームワーク選定やエンジニア採用・育成の文脈で参照できる視点だ。また udzura さんが紹介した「Vivarium」は、Ruby スクリプトの監査ログを Claude に渡して AI が攻撃分析を行うデモであり、セキュリティ × 生成 AI の実装例として注目に値する。
詳細
開催概要
SmartHR は RubyKaigi 2026 に Hangout Sponsor として協賛し、「ルールルルルルルビーカイギ」をテーマに一連のイベントを展開した。会期前の事前勉強会、会期中のたまり場「五稜郭」、会期翌日の「函館市電 LT」に続く最終イベントとして、2026年5月22日に東京・六本木の SmartHR Space で本イベントが開催された。タイトルの「したっけ」は北海道方言で「またね」の意。チーフオーガナイザーの松田明さんも登壇し、初参加者から Ruby コミッターまで多彩な登壇者が集った。
受付では RubyKaigi 2026 事後勉強会限定のアクリルキーホルダーが配布され、会場では RubyKaigi 本会期中に好評だった「モルック」と自作イカ釣りゲーム「IKATSURUBY」が再現展示された。
ポストモーテム枠
yancya さん:あのアレの “個人的な” 振り返り
カスタムスポンサー企画「Rubyist Bulk Reload 2026」(18時間かけて船で北海道へ渡る企画)の直前に地震が発生し、イベント中止・下船になった。にもかかわらず車やバイクは船に乗せたまま出航という緊迫の舞台裏が、ポストモーテム形式で語られた。乗船前の判断体制・指揮系統の明確化・旅行代理店への一任といった実務的な教訓が共有され、来年は「神戸〜宮崎」でのリベンジを誓った。
初参加者によるLT
a2c さん(SmartHR):Inspired By RubyKaigi (EN)
今回が初参加だった a2c さんは、HASUMIさんの PicoRuby セッションに触発され、JavaScript を一切使わず Ruby と CSS だけで動くリアルタイム投票アプリを開発。「来年の宮崎で食べたいもの」をその場でライブ投票するデモを全編英語の LT で披露した。AI 時代だからこそ自ら手を動かし英語で発信する姿勢が称えられた。
asano さん(ギフティ):初めてのRubyKaigiはこう見えた
新卒2年目エンジニアの asano さんは、初の RubyKaigi・初の函館・初の LT 登壇という三重の「初」でステージに立った。「内容は2割分かれば良い」と言われて臨んだ現地では、「Ruby Committers and the World」でのコミッターたちの生議論に鳥肌が立ち、「Kaigi Effect」が発動。Webブラウザ上で PicoRuby を用いた人生初「Lチカ」を実装した体験が報告された。
2回目以上参加者によるLT
NGT さん(SmartHR):Kaigi Effect Effect
フロントエンドエンジニアの NGT さんは、カスタムスポンサー企画として自作ゲーム「IKATSURUBY」を開発し、RubyKaigi 2026 期間中に延べ 970人のプレイヤーを集めた。mruby 製ゲームエンジンと PRK Firmware による自作コントローラーを使った開発を通じ、「ハードウェアの凄さを言葉ではなく心で理解できた」と語った。「Kaigi Effect によって何かを作ることで次の RubyKaigi がもっと楽しめる」という Kaigi Effect Effect を提唱し、大きな反響を得た。
うきのこ。さん:AIとRubyの静的型付け
3回目参加のうきのこ。さんは、「AI 時代において Ruby の型はどうなるか」を考察。AI がコードを書く時代には IDE 支援ニーズが減る一方、非決定的に動く AI だからこそ静的型付けによる「保証」は必要であり、利用コストを抑えられる型推論(TypeProf など)の重要性が今後高まるという見解を披露した。内容が濃すぎて時間内に収まらず、ドラ係の sinsoku さんも「最後まで聞きたかった」と語った。
スピーカーによるLT
udzura さん(SmartHR):The Box Garden 〜 Struggles Since 2016 〜
RubyKaigi 2026 で「Uzumibi: Reinventing mruby for the Edges」を発表した udzura さんは、Cloudflare Workers 等で自作 mruby を動かすプロジェクト「Uzumibi(埋火)」の10年の歩みを振り返った。2027年に向けて開発中の OSS「Vivarium」では、CRuby と Linux のセキュリティ技術を組み合わせ、Ruby スクリプトの中身を見ることなく出力された監査ログを Claude に渡してAIが攻撃分析を行う仕組みを実演した。プロジェクト名「Vivarium」は Gemini に考えてもらったという。
Kazuho Oku さん:RubyでRuby拡張を書いたらRubyより35倍速になったってどういうこと??
Kazuho Oku さんは、RubyKaigi 2026 の Matz Keynote で紹介された AOT 処理系「Spinel」に触発され、帰りの新幹線で「Ruby で Ruby 拡張を書く」実験を実施。CRuby の GC と競合しないよう GC を発生させないラッパーを構築した結果、ピュア Ruby 比35倍・CRuby 比1.68倍の高速化を達成した正規表現エンジン「regexpinel」を発表した。会場では多くの参加者が前のめりになった。
Ruby コミッターによるLT
Yuichiro Kaneko さん:Modding RubyKaigi for Myself
冒頭で「2026年5月から SmartHR にジョイン」とサプライズ発表。RubyKaigi の楽しみ方をオーガナイザー・スピーカー・スポンサー・地域情報の4コンテキストで解説した後、今年は羽田→稚内を経由して鉄道のみで函館を目指すという超過酷ルートで移動し、発表資料の半分を稚内で仕上げたエピソードを披露した。
成瀬さん:net-httpのHTTP/2対応とRubyのエコシステムについて
Ruby コミッターの成瀬さんは、1999年から続く標準添付ライブラリ「net-http」の HTTP/2 対応への現在進行中の取り組みを紹介。多重化やヘッダー圧縮のメリットを説明しつつ、「AI 時代だからこそ Rails のようにレールを敷いてくれるエコシステムとコミュニティの重要性が増す」と述べた。多様な人がアイデアを持ち寄り手元で動いたものをコミュニティへ還元する環境こそがこれからの時代に必要だと訴えた。
オーガナイザー/NOCによるLT
osyoyu さん(SmartHR):Wi-Fiはどこから来たのか、Wi-Fiは何者か、Wi-Fiはどこへ行くのか
NOC(Network Operation Center)チームメンバーの osyoyu さんは、総勢 17名の NOC チームの舞台裏を紹介した。事前に東京で 4km 分のケーブルを巻き直す作業会を実施し、Day 0 は朝5時起床で広大なアリーナへの配線を行った。当日は事前に作成した「TF(Terraform)ファイル」に沿って全員がリアル世界で「terraform apply」を自律実行するように動いたという例えが会場を沸かせた。
ikaruga さん:地元にいないローカルオーガナイザーの立ち回り
関東在住ながら函館のローカルオーガナイザーとして活動した ikaruga さんは、リモートで対応できるタスクの多さを示しつつ、移動情報の英語版作成・街頭アナウンス音源の自作ミックス・懇親会会場の急な切り替えとバス・タクシー手配など、泥臭い舞台裏を明かした。
チーフオーガナイザーによるLT
松田 明さん:したっけ2026
大トリを務めたチーフオーガナイザーの松田明さんは、函館アリーナの会場費が1日45万円(公開情報)だったという数字から始まり、通訳マッチングの手違いを「外国人の名前のようですが、外国人です」というジョークで笑いに変えた Aaron Patterson 氏のエピソード、「星ロゴのパーカー」に隠された Ruby の秘密、オリジナルクラフトビール「Ruby on Ale」の裏話など、運営陣のこだわりが詰まったトークを披露した。
懇親会・クロージング
SmartHR の osyoyu さんと pndcat さんによる乾杯の挨拶で懇親会がスタート。途中では今後の地域 Ruby 会議登壇者が発表内容をアピールする場も設けられ、最後は eminem さんによる「また来年、宮崎でお会いしましょう!」の言葉で締めくくられた。RubyKaigi 2027 は宮崎開催となっており、コミュニティの熱気は次の会場へと引き継がれた。