記事のサマリー(TL;DR)
- SmartHR 2026年入社・新卒一期生エンジニアが、ビジネスサイド・VPoE・情シスなど異職種に1on1を実施
- 事業責任者から「想像の数倍」の成長目標数字を聞き、タスク完遂以上の視座を獲得
- 個人の1on1をチーム全体の質問会に発展させ、情シス現場の課題をチームで共有
情シス向けSaaS開発者・エンジニア組織マネージャーが注目すべき「越境1on1」の実践
SmartHR は 2026年4月に初めて新卒エンジニアを迎え入れた。本記事はその一期生である nose 氏が入社直後から実践した「1on1行脚」の記録だ。情シス(情報システム部門)向けソリューションを開発するプロダクトエンジニアが、自分の担当領域を超えてセールス・事業戦略・エンジニア組織の責任者に直接対話を求めるというこの取り組みは、規模の大小を問わず多くのSaaS企業が抱える「開発とビジネスサイドの分断」を解消するヒントを含んでいる。
kintone や Salesforce、SmartHR のような業務SaaS を導入・カスタマイズする現場では、エンジニアが「どう作るか」だけに集中し、「なぜ今これを作るのか」「誰がどう売り、どう使われるのか」が共有されないまま開発が進むケースは少なくない。本記事が示すのは、新卒という立場を活かした心理的ハードルの低下と、個人の学びをチームの学びへ転換する仕組みの二点だ。特に後者——情シス担当者との個人1on1をチーム全体の質問会に発展させた判断——は、プロダクトチームがユーザーの業務実態に継続的に触れる仕組みとして参考になる。
詳細
はじめに
SmartHR 新卒一期生(2026年4月入社)の nose 氏は、現在プロダクトエンジニアとして情報システム部門(情シス)向けソリューションの開発を担当している。入社後、自分のチームの枠を超え、ビジネスサイド・事業戦略・エンジニア組織などさまざまな立場の人に1on1や質問会を申し込んできた。本記事はその「1on1行脚」の記録だ。
きっかけ:ブラウザ自動操作機能の本番リリース
入社直後に携わった大きな仕事が、ブラウザ自動操作機能の本番リリースだった。APIに対応していないSaaSのアカウント情報を、Chrome拡張を使ってブラウザを操作することで取得できるようにする機能だ。
本番リリースは実装だけで完結しない。仕様の把握、動作確認、リリースに向けた調整と、考えるべきことが一気に増える。内定者インターン時代は細かく切られたタスクに取り組むことが多く、「まず自分の実装を進める」ことに意識が向いていた。しかし本番リリースを経験することで、「自分たちが作ったものが、会社の商品として世に出ていく」という実感を得た。
そしてその直後、次の疑問が生まれた。「この機能はこれからどのように売られていくのか。ビジネスサイドの人たちはどんな目標や動機を持ってこのプロダクトに向き合っているのか」。機能リリースの喜びが、プロダクトを届ける人への興味へと変わった瞬間だった。
動き出した背景:「新卒の今なら聞きに行ける」
実際に行動する背中を押したのは、上司との1on1だった。「ビジネスサイドのことを全然わかっていなくて、気になっている」と話すと、「新卒のうちは特に話を聞きに行きやすい」というアドバイスをもらった。
普段の業務では接点を持ちにくい人や、職種の異なる人に自分から1on1を申し込むのは誰でも勇気がいる。しかし「まだわからないことが多いので、勉強のために話を聞かせてください」という言葉は、新卒のフェーズだからこそ自然に口にできる。
動機は大きく2つだった。
- 早いうちに多くの人と話しておいたほうが良い学びになる
- わからないことが多い今なら、気負わずに話を聞かせてもらいやすい
加えて、率直に「顔と名前を覚えてもらいたい」という気持ちもあったという。誰に話を聞きに行くかは上司と相談しながら決めていった。
1on1で広がった視座:3つの印象的なエピソード
1. セールス・提案担当者との対話
お客様への提案や導入に関わる方から、商談の中でプロダクトがどう説明され、どんな期待を持たれているのかを聞いた。「自分はプロダクトが実際にどう売られているのか、ほとんど知らなかった」という気づきがあった。
2. 事業責任者から聞いた「想像の数倍」の成長目標
最も衝撃的だったのが、事業責任者から聞いた翌年に向けた事業の成長目標だ。具体的な数字は伏せられているが、「自分が想像していた額の数倍だった」という。
「あと一年で何を作ったらそこに届くんだ?」と頭が追いつかなくなったと振り返る。この体験を機に、**「自分は今、目の前のプロダクトを作ることだけを考えていていいのだろうか」**という問いが生まれた。タスクの外側——事業全体の文脈——を意識するきっかけになった。
3. VPoE(VP of Engineering)からの言葉
エンジニア組織を統括する VPoE から、「AI時代における新卒の成長のあり方を自分なりに模索してほしい」という趣旨の言葉をもらった。
当時の nose 氏は「事業成果のためにも、目の前の仕事をたくさんこなすぞ」と意気込んでいた。しかしこの言葉で、自分自身の成長を考えること自体が会社への貢献になりうるという視点に気づいた。「任された仕事を頑張るだけが貢献ではない」——それまでの自分にはなかった視点だったという。
個人の1on1をチームの学びへ:情シス担当者との質問会
1on1行脚を続ける中で、次の目標としてSmartHR社内の情シス担当者に話を聞くことを考えていた。開発している情シス向けソリューションのユーザーに最も近い存在として、アカウント作成・削除・棚卸しといった実務上の課題をリアルに知りたかった。
最初は個人の1on1として申し込む予定だったが、上司に相談したところ「せっかくならチーム全体で聞ける場にしても良いのでは」という提案を受けた。
そこでチーム全体を巻き込んだ質問会として実施。事前に聞きたい内容をまとめ、当日は情シスの方に普段の業務とプロダクトへの率直な期待を話してもらった。結果として、個人の学びで終わるはずだった機会が、チームとしてユーザーの業務・課題を知る場になった。
この体験から得た気づきは明確だ。「新卒の自分が持った『知りたい』という気持ちは、そのままだと個人の学びで終わる。しかし個人の好奇心も、形を変えればチームの学びにできる」——上司の一言がなければ気づけなかった視点だったと振り返る。
まとめ:新卒に限らない「越境する好奇心」の価値
さまざまな立場の方と1on1・質問会を重ねた結果、仕事の見え方が変わってきたと nose 氏は言う。
チケットや仕様を読んで「どう作るか」だけを考えていた状態から、「なぜ今これを作るのか」「誰がどう売り、どんな期待で使われるのか」まで意識が届くようになった。
そして強調するのは、これは新卒に限った話ではないという点だ。「気になることがあれば、これからも自分から話を聞きに行きたい。聞きに行くか迷っている人の背中を押せていたら嬉しい」と締めくくっている。