記事のサマリー(TL;DR)
- 現地89名・オンライン25名が参加し、LT大会史上2番目の現地参加者数を記録
- 社内ブログ「bloghr」はリリース10日間で568人利用・記事131本・いいね2,887件を達成
- k6負荷試験でDB CPU使用率100%の性能限界を発見、AIサイクルで同日中に500→1,000rpsへ改善
SmartHRエンジニア組織の内製文化とデータ計測手法が示すもの
SmartHRが2か月ごとに開催するLT大会は、プロダクトエンジニア主導でDevRelが支える社内イベントです。今回は「失敗の振り返り」「自作ツール」「カンファレンス参加レポート」「負荷試験」「開発生産性の定量化」という5軸のテーマが揃い、現場実装の粒度でノウハウが共有されました。
特に注目すべきは、Findy Team+のプロジェクト投資分析を用いた活動可視化の発表です。新機能に約8割、品質保証に約1割を割く一方で機能改善にはほぼリソースが割かれていないという定量データは、SaaS事業者が開発投資のバランスを見直す際の具体的な出発点になります。kintoneやSalesforceの内製開発チームでも、同様のツールやBigQueryベースの工数可視化基盤を用意することで、同じ問いに答えられる環境を整備できます。
また、年末調整機能チームがk6負荷試験をfeature開発と並行して進め、目標2,250rpsに対して初回500rpsという結果をAIで素早くボトルネック分析し2時間以内に1,000rpsへ引き上げた事例は、繁忙期対応の負荷試験を「直前ではなく計画フェーズから組み込む」アプローチの実践例として参考になります。
詳細
SmartHR LT大会とは
SmartHR LT大会は、有志のプロダクトエンジニアがDevRelとともに隔月で企画・運営する社内イベントです。プロダクトエンジニアの中から11名の登壇者を募り、1人5分のLightning Talks(LT)を行います。職種を問わず全社員が聴講でき、配信により現地参加が難しい社員もリモートで参加できます。
参加者情報
| 区分 | 人数 |
|---|---|
| 現地参加者(うち登壇者11名) | 89名 |
| オンライン参加者 | 25名 |
| 懇親会参加者 | 77名 |
現地参加者89名は、昨年末の忘年会兼LT大会に次いで、LT大会史上2番目に多い回となりました。
発表レポート
ドメエキの話をちゃんと聞こう!(qwyngさん)
CSVアップロードの列数制限をすり抜けてしまったインシデントのふりかえりLTです。ドメインエキスパート(ドメエキ)は関連情報を事前に伝えていたものの、開発チームがその検証の必要性に気づけなかったことが根本原因とされました。「ドメインエキスパートと用語を正確にそろえて会話する」という実践的な教訓が共有され、失敗を率直に語る心理的安全性の高さが伝わる内容でした。
bloghrの”真実”(osyoyuさん)
社内向けブログプラットフォーム「bloghr」の開発経緯とデプロイ基盤の紹介です。Reactで構築され、Slackの #random チャンネルへの通知連携や、何度でも押せる「いいね」機能を備えています。リリースから10日間で568人が利用し、131本の記事と2,887件のいいねが集まりました。
NotionなどのSaaSを使わず内製した理由は、「書き上がったタイミングで通知できること」と「俺たちのもの」という所有感です。デプロイ基盤としては、Cloud Run上でFlux CD的な体験を実現する社内ツール「kufu/fleet」を自作。GitHubへのpushを起点にアプリを手軽にデプロイできる環境を整備しています。
TSKaigi 2026 にいってきたよ(kazuemonさん)
5月22〜23日開催の日本最大級TypeScriptカンファレンス「TSKaigi 2026」の参加レポートです。印象に残った発表として、関数型プログラミングに関する講演、型推論周りのコンパイラの話、そしてTypeScript開発者のJake Baileyさんによる「TypeScript 7がなぜGoに移植されたのか」という基調講演が紹介されました。テックカンファレンス初参加の視点からの率直なレポートで、業務への応用しやすさも語られました。
Google Slideをやめたい(noriさん)
登壇先でネットワークが不安定になり、Googleスライドの画像やフォントが読み込めなくなった経験から、オフラインでも崩れないプレゼンテーションツール「SlideHR」を自作した経緯の紹介です。当初はPowerPoint形式(pptx)のXMLを生成する方針を試みましたが、ファイルの復元時に崩れてしまい断念。最終的にHTML・CSS・JavaScriptと、スライドをRubyのDSLで記述する方式で構築し、スライドと同期するプレゼンタービューまで実装しました。Rubyコード内への複数行テキスト記述のしづらさは今後の課題とのことです。
RubyistがLaravel Live Japan行ってきましたレポ(mktakuyaさん)
5月26〜27日開催のPHPフレームワーク「Laravel」の国際カンファレンス「Laravel Live Japan」の参加レポートです。Laravel作者のTaylor Otwellさんによる基調講演ではLaravel専用PaaSの「Laravel Cloud」が紹介され、「この時代にフレームワーク特化のPaaSを出す覚悟よ」と印象に残ったそうです。
異なるフレームワークの開発者と交流するには「ActiveRecordではなくRDBMSのレイヤで、SidekiqではなくRedisの言葉で話す」——つまり一段レイヤを下げることが重要で、それがRailsへの理解を深める頭の体操にもなるという知見が共有されました。5分では語り尽くせなかった内容は、Kaigi on Rails発起人の大倉さんとのポッドキャストで公開されています。
はじめまして、入社改善チームです(yasudaさん)
2026年6月1日に「横断改善チーム」から改称したばかりの「入社改善チーム」の自己紹介LTです。チームのミッションは入社周りの体験を「担当者にも従業員にも迷わないもの」にすること。ポイントは「機能カットではなく業務カット」で設計するアプローチです。
複数画面に分かれていた招待操作を1つの画面に集約した「招待管理」機能が中核となっており、発表2日前には資格情報の連携機能もリリース済み。今後は従業員属性に応じた招待テンプレートの自動選択など、ミスを減らして現場に運用を任せられる状態を目指した開発が続きます。
mashi6nさんの発表
発表内容・タイトルともに社外秘のため紹介不可。会場では大きな反応があり盛り上がりを見せたとのことです。
年末調整を乗り越えるぞ!(HIGUCHI.Takashiさん)
SREと年末調整機能の開発チームが協力して取り組む負荷試験プロジェクトの報告です。負荷試験ツール「k6」を用いて基盤を整備し、数千人規模でユーザーが重複しないシナリオ設計(年調アンケートはユーザーが重複するとエラーになるというドメイン特性への対応)と、Critical User Journey(CUJ)ベースのシナリオ作成を、feature開発と並行して計画的に進めました。
目標は2,250rps。初回結果は500rpsでしたが、その場でAIを活用して試験→改善→再実施のサイクルを2時間以内に回し、同日中に1,000rpsまで改善。500rps時点でDBのCPU使用率が100%に達して性能限界を把握できたことが、「10月になってから気づいたら遅かった」問題を早期に発掘できた大きな成果として語られました。
プロジェクト投資分析を利用してチームの意思決定を最適化する(ykyuki21さん)
Findy Team+のプロジェクト投資分析機能を使い、開発チームのリソース配分を可視化した内容です。計測の結果、新機能に約8割・品質保証に約1割を割いている一方、機能改善にはほぼリソースが割けていないことが明らかになりました。この定量データを今後の意思決定の根拠として活用していく方針が共有されました。
発表者は「AI登場前後での変化」や「異なる開発フェーズのプロジェクト間比較」など、さらなる分析軸の可能性にも言及しています。
音の次は「画像」がくる(udzuraさん)
RubyKaigiなどで「音が鳴る」発表が増えてきた背景を踏まえ、あえて「画像の空間周波数」に着目した分析LTです。自然画像・美術写真・AI生成画像の3種について周波数スペクトラム画像を生成して比較したところ、次のような傾向が確認されました。
- 自然画像:低周波成分が多い
- AI生成画像:中周波成分も満遍なく含む傾向
- 美術品:自然画像に近い低周波成分を主としつつ、作家ごとに特徴的な分布が見られる
特に点描画法で有名なジョルジュ・スーラの「グランド・ジャット島の日曜日の午後」が低周波に集中した分布を示したという結果は興味深く、AI生成画像の中帯域分布が「細部まで描き込まれすぎていてどこに目を向ければよいかわからない」という主観的印象と一致するという考察も示されました。
「成果、出た?」に答えるための2つの備え(shooenさん)
プロダクト開発においてリリース後の成果を正しく計測するための「2つの備え」を紹介した実践的なLTです。
- 成功条件(成果の指標)を事前に設定する
- リリース後の観測期間と判断分岐を事前に決めておく
これらを事前定義しておくことで、「作った機能が実際にターゲットユーザーに喜ばれているか」を継続的に把握し、次の開発へ適切につなげられます。成功条件を満たせなかった場合にその理由までヒアリングに含めることで、「機能自体の問題か別の要因か」を切り分けられるという視点が特に実践的でした。
懇親会
懇親会では、RubyKaigi 2026オリジナルビール「RubyKaigi DDH 2026」を楽しみながら交流が行われました。
まとめ
第17回SmartHR LT大会は、TSKaigiやLaravel Live Japanからの参加レポート、bloghr・SlideHRといった自作ツールの紹介、失敗からの学び、k6を用いた負荷試験、Findy Team+による開発投資の定量化まで、現場の知見と遊び心が凝縮した回となりました。第18回は2026年8月21日開催予定です。